27日のアジア大会準決勝、チャイニーズ・タイペイ(以下、台湾)戦。4対10で敗れた侍ジャパン社会人代表は、その瞬間、目標としていた金メダルに挑戦する権利を失った。
試合後、会見場に現れたキャプテン・多幡雄一(32=Honda)の目は充血。胸元には7回の打席で、一塁にヘッドスライディングした時の土が残っていた。多幡にここまでの戦いを振り返ってもらおうと尋ねると、彼は大きな瞳に一層力を込め、こう答えた。「まだ全体の反省をすべきではない。気持ちを切り替えて、明日に向かっていきます」。この多幡以下、日本のメンバーは最後の一球まで全力で戦い、翌日の3位決定戦で中国に10対0でコールド勝ち。2大会連続の銅メダルを獲得した。
国際大会は普段の戦いとは違い、一種独特なものがある。それを各選手は「経験」と考え、前に向かっていった。パキスタン戦に先発した守安玲緒(27=三菱重工業神戸)は、大学時代のアジア選手権以来の代表入り。「責任を感じた」という守安は立ち上がり、試合前のセレモニーなどに慣れないやりづらさもあり、初回に1失点。しかし2回以降は「それまで真っ直ぐが甘く入っていたのを修正した」と、徐々にその雰囲気に慣れていった。
関谷亮太(23=JR東日本)は準決勝と3位決定戦に連投。台湾と中国、両チームの実力差に「難しさがあった」というが、「それでもやらなきゃいけない」と先発した3位決定戦では6回を投げ、中国打線を0点に抑えた。今大会、関谷は3試合に登板し、10回を投げ無失点。出場全投手の中で、最も良い成績だった。
また、相手チームのムードも選手のリズムを狂わせた。内野手の遠藤一星(25=東京ガス)はパキスタン戦で、「パキスタンの選手は練習の時、あまりにリラックスしているので、相手のペースに合わせてしまい、最初はスイッチが入らなかった。しかし、イニングの合間にキャプテンを筆頭に“やるべきことをやろう”と言ってから変わりました」と話した。この試合、遠藤は3番打者として2安打をマークしている。
韓国、台湾とプロ選手主体のチームに対し、社会人代表の日本の選手たちは彼らに劣らぬ結果を残した。多幡は今大会2位の打率.600。打率3位の藤島琢哉(31=JR九州)は8安打を放ち、安打数2位タイにつけた。打点でも2~4位を林稔幸(34=富士重工業)、松本晃(29=JR東日本)、倉本寿彦(23=日本新薬)が占めるなど、それぞれが与えられた役割をしっかりとこなしていった。
小島啓民監督(50=三菱重工/長崎県庁)は大会を終え、「韓国との差はあるが、台湾との差は感じていない。紙一重の差だった」と話した。わずか5試合での結果ではあるが、日本はチーム防御率(0.97)、チーム打率(.405)とも今大会トップ。胸を張れる銅メダルだ。
中国の3位決定戦を取材していた韓国の記者からはこんな声が上がった。「日本の守備のレベルはとても高い」。特にその日は、セカンドで先発出場の田中健(24=新日鐵住金かずさマジック)が、1回裏の守り、ライトからの中継プレーで無駄のない動きを見せ、ホームへ好返球。走者はタッチアウトとなり、相手の先制を防いだ。また3回裏の先頭打者の二遊間を抜けようかという打球を、田中は軽い身のこなしでつかみ、一塁へジャンピングスロー。ファールで粘られていた関谷を助ける、華麗で意味ある1アウトだった。
小島監督は大会を終え「選手はどのチームよりもきびきびとしスピーディーで、フェアプレーの精神を見せられた。日本の素晴らしさ、チームワークが随所に見られたことに満足している」と話した。
3位決定戦、中国に10対0とした7回裏。コールド勝ち目前の最後の1イニングは、投手最年長の幸松司(32=JFE東日本)が2者から三振を奪い、最後の1人は小島監督が「投手をまとめたリーダー」として、佐竹功年(30=トヨタ自動車)を指名。佐竹は最後のバッターをサードゴロに打ち取り、有終の美を飾った。
韓国では試合前の打撃投手を交替で務めた各野手、選手を支えるチームスタッフ、皆が一丸として戦った。日本からは日の丸がついた夫のユニフォームを手に、一家総出で応援に来た家族がいた。
決勝戦後の表彰式。韓国、台湾の選手は戦いを終えた後のユニフォーム姿で、喜びを派手に表現していたが、一方、日本の選手はチームウェア姿で控えめに右手を挙げ、観客の拍手に応えた。その謙虚な侍たちにかけられた銅メダルは、金や銀に負けないくらい輝いていた。
彼らはチームに戻り、多くの選手が11月の社会人野球日本選手権に出場する。アジア大会での数多くの貴重な経験は、次の舞台でもきっと発揮されることだろう。
試合結果
予選リーグ
日時 | 結果 |
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2014年9月22日(月) | 日本 11 - 0 中国 |
2014年9月23日(火) | 日本 9 - 1 パキスタン |
2014年9月25日(木) | モンゴル 0 - 21 日本 |
準決勝
日時 | 結果 |
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2014年9月27日(土) | 日本 4 - 10 チャイニーズ・タイペイ |
3位決定戦
日時 | 結果 |
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2014年9月28日(日) | 中国 0 - 10 日本 |