2018年11月7日
――4年ぶりとなる日米野球がいよいよ始まりますが、今回のMLBオールスターチームにはどんな印象をお持ちでしょうか。
(小宮山)一番注目されるのはスタッフの松井秀喜ベースコーチ(ヤンキースGM特別顧問)なんでしょうけど(笑)、選手の顔ぶれで言うと全体的に若く、いわゆる“ビッグネーム”が少ない気はします。ただ人選にはいろいろな事情が絡むので仕方ないことですし、それでも彼らはメジャーのレギュラークラス。シーズンで活躍したから今回選ばれているわけで、レベルは非常に高いですよ。
――小宮山さんが注目している選手はいらっしゃいますか。
(小宮山)特に外野手は能力が高いです。その中でもアクーニャJr.(ブレーブス)とソト(ナショナルズ)のルーキー2人。アクーニャJr.は攻守走の三拍子がすべて揃っていて、記録を塗り替えるくらいの選手(8月にメジャー最年少の5試合連続本塁打をマーク)。ソトも打撃が抜群で、所属チームでは将来的にブライス・ハーパーに代わって“チームの顔”になると言われています。
2人とも5年後には間違いなくスーパースターになっているでしょうし、そういう選手の駆け出しの時期を見られるのはものすごくいい機会じゃないですか。
――“ビッグネーム”ということで言えば、米オールスター9回出場のモリーナ(カージナルス)の名前もありますね。
(小宮山)みんなが知る存在ですから、わざわざ日本に来てくれるのはありがたいですね。それから、野手では今年のワールドシリーズを戦ったドジャースのテイラーやヘルナンデスもいる。このメンバー構成だと四番はサンタナ(フィリーズ)になるんですかね。同じフィリーズのホスキンスも打撃が良いですし、ピラー(ブルージェイズ)なんて外野守備ではフェンスだろうが何だろうが突っ込んでいくので、どこまでダイブするかというのもある意味、見ものです(笑)。そういう彼らのプレーを、間近で見られるっていうのはいいですよね。
――では、投手陣はいかがですか。
(小宮山)誰が一番良いってなると難しいですが、たとえばジョンソン(レッドソックス)などは今回のワールドシリーズこそ出ていないものの、レギュラーシーズンでは本当に大事なところで頑張っていましたし、ある程度の水準の投手たちが集まっていると思います。その中に前田健太(ドジャース)も選ばれていますから、注目ですよね。全体的に言うと、そこまでスゴイって言われる投手がいないのは残念ですが、リリーフ投手が多いのは小刻みにつないでいくための人選でもあるだろうし、普通のメジャーリーグの試合の感じが見られるのかなと。
――逆に侍ジャパンからすれば、いろいろな投手が見られるというメリットもありそうですね。
(小宮山)そうですね。ある程度スピードがある投手ばかりなので、チェンジアップとの兼ね合いも含めて、日本とどれくらいの(スピード感の)差があるのかっていうのを目の当たりにできるでしょう。またマキュー(アストロズ)などはスライダー系の球も結構な勢いで放ってきますし、MLB公認球を使うならばなかなか遠くへ飛ばないわけで、メジャーの投手たちの球の重さも感じるだろうし。キレイなストレートを投げる投手なんて、それこそ前田くらいしか見当たりませんからね。
――そういう意味では、侍ジャパンが得るものは多い、と?
(小宮山)それは間違いないですね。今の野球界の流れで言うと、ストレートをキレイな4シームで投げる投手っていなくなってきている。そんな中、150キロ前後で動いてくる重い球を実際に体験できるわけですから、日本の打者にとってはかなり有意義だと思いますよ。
――侍ジャパンとの対戦においては、どの辺りが焦点になるでしょうか。
(小宮山)今回のMLBメンバーと互角に試合ができないようだと、日本の野球は苦しいなという印象になってしまいます。逆にメジャーリーガーたちを本気にさせるくらいの試合をすれば、日程が進むにつれて真剣勝負の度合いが増す。前回(2014年)ではノーヒットノーランをやられたという苦い記憶もあるわけですし、向こうにも火が点くでしょう。そうなったとき、侍ジャパンがどんな野球をするのかは見ものです。あとは、日本の選手たちがどんな気持ちで臨むか。強化試合という位置付けでどこまで許されているかは分かりませんが、アメリカでプレーしたいという想いがある選手にとっては、本当にいい腕試しの場ですからね。
――日本人のメジャー挑戦という部分も含めて、期待は大きいですね。
(小宮山)投手はある程度やれるっていうのが分かってきているので、問題は打つほうですよね。あの重い球をどれだけ弾き飛ばせるか。打者はおそらく、大谷(エンゼルス)の今年の成績が目安になっているはず。「大谷レベルであれくらいの数字だから、じゃあ自分はどれくらいなんだろう」と。
――たとえば、柳田(ソフトバンク)などはどうでしょうか。
(小宮山)あれだけ大きくスイングするわけですから、重くて動く球に対してはズレが生じやすい。したがって、ちょっと差し込まれたら厳しい打撃になってしまうと思います。ただ、それは数をこなすことで対応できるようにもなっていくので、今回そういう機会があったとしたら、いい勉強になるんじゃないですかね。
――近年はずっと、日本人野手はメジャーで活躍するのが難しいと言われていますよね。
(小宮山)向こうには、ヒットをたくさん打つよりも長打力がある選手のほうが得点能力は高いという考え方があります。イチロー(マリナーズ)や現ヤクルトの青木宣親などは希少価値があるということで認められましたけど、基本的には(日本人打者は)ホームランを打てないって思われているんです。そこに大谷選手が行って、ホームランも打てるんだって証明したわけですから、それに続く長距離砲を送り出したいところではありますよね。柳田や山川(西武)は、(向こうには)どう映るんでしょう。
――さらにポジション的には、特に内野手だと厳しいんじゃないかという声もよく聞きます。
(小宮山)守備力では、菊池(広島)の「捕る」という部分はメジャーの中でも特Aだと思います。ただし「投げる」という部分で考えると、メジャーの内野手って信じられないくらいの強肩。じゃあそれをどうカバーするのかと言ったら、確実に打球を捕って、なおかつ本当に送球ミスがないようにできるかどうか。菊池や山田(ヤクルト)などは守備面がマイナスではないと思うので、打撃がちゃんと評価されれば何とかなるのかなっていう気がします。
――一方の投手ですが、メジャーの打者を打ち取りやすいタイプなどはあるのでしょうか。
(小宮山)サウスポーでスライダーを有効に使えれば、わりと抑えられるんじゃないかなとは思います。右投手は今回のメンバーを見ると、球の速さで押していくタイプがあまりいないので、チェンジアップ系を上手に使えるかどうか。あと、今はカーブが有効だという話になっているんですが、大事なのは制球力。それもただストライクが取れるだけではダメで、同じような球でストライクゾーンとボール球ゾーンに投げ分けができて、さらに速さもコントロールできるレベルが求められます。そういう意味では、岸(楽天)なんか面白いんじゃないですか。カーブを混ぜながら直球とフォークを上手に使っていけば、メジャーの各打者がきりきり舞いする可能性も十分にあると思います。あとは、特殊なタイプ。もちろんある程度の速さがなければ厳しいとは思いますが、高橋(ソフトバンク)などはアンダースローから140キロを投げるわけですし、初見であれば抑える可能性は高いんじゃないですかね。
――小宮山さんも現役時代、日米野球に3度出場されています。その経験はやはり大きなものでしたか。
(小宮山)もちろんです。最初は日本代表という肩書きで呼ばれていることに興奮しましたが、2度目、3度目はメジャーリーガー相手に投げられるという喜びしかなかった。結果どうこうよりも、テレビで見てきたあの選手がすぐそこにいるっていう高揚感。だから個人的に思うのは、日米野球も選手の立候補制にしたら面白いんじゃないかと。実は私もロッテ時代、後輩の伊良部(元ヤンキースほか)が日米野球を辞退したときにすぐ「欠員が出たから俺を出してください」と球団に言って、それで選んでもらったことがあるんですよ(笑)。もちろん、選ぶ側からすれば侍ジャパンとしてのプランがあるので難しいんですけど、今回にしても選ばれなかったことで地団駄を踏んでいる選手がいるはず。できるだけ、選手の意欲を買ってほしいという気持ちもありますね。
――日米野球でのプレーを振り返ると、どんな思い出がありますか。
(小宮山)初めて出たのはルーキーだった1990年。当時は阪神からデトロイト・タイガースに移籍してホームラン王になったセシル・フィルダーが目玉でした。でも、みんながフィルダーの打席に期待している中、私はフォアボールを出してしまった。そうしたら、東京ドームでビックリするくらいの大ブーイング(苦笑)。あれは未だに忘れられないですね。
――2度目は1996年ですね。
(小宮山)このときは、甲子園でバリー・ボンズ(元ジャイアンツほか)と対戦した記憶があります。たしか外野フライに打ち取ったんですが、私が投げる程度の速さの内角ストレートを詰まったんですよね。と言うのも、私くらいの直球のスピードって当時のメジャーではスライダーと同じくらいのスピード。だから彼はスライダーの感覚で待っていて、でも曲がらずに体の近いところへそのまま真っすぐ向かって来たものだから、慌ててスイングして詰まった。そんな思い出がありますね。
――そして、3度目は1998年。
(小宮山)最後に投げたのは福岡ドーム(現:福岡ヤフオク!ドーム)だったと思います。三振をいくつも取れたのですが、そのときに遅いカーブがすごく有効だったので「あっ、カーブは使えるな」と。当時のメジャーでカーブを投げる投手がいなかったこともありますが、私が投げていたのも空中でいったん止まって空回りしてから落ちてくる、岸投手のように抜いて投げるカーブ。今ではメジャーリーグでもカーブへの考え方が変わっているとは思いますが、それでもタイミングは合わないんじゃないかという気はします。
――実際にメジャーリーグのマウンドも経験された小宮山さんですが、その当時と今ではメジャーリーグの野球もまた変わっていますか。
(小宮山)科学的なものが解明されてきて打撃力も向上していますし、当時とはまた違うと思います。ただ私の場合はスピードが出なくて、頑張っても90マイル(約145キロ)に届くかどうか。でも今の日本人投手たちは93~94マイル(約150キロ前後)を平気で投げられるので、あとは沈めたり外へ逃がしたりという変化球に空振りを取れる速さがあれば、十分にやれると思いますよ。
――そう考えると日米野球では試合結果もそうですが、各投手、各打者との対戦が見逃せませんね。
(小宮山)あと大事なのは、メジャーリーガーたちをいかに本気にさせるか。日米野球って昔はシーズンオフのご褒美。MLBチームも“ジャパンツアー”と銘打って家族も招待して合間に観光をするような感覚で、そんな彼らを「本気にさせよう」っていうのが合言葉でした。今はワールド・ベースボール・クラシックなどもできて、少し目の色が変わっている気もしますが、もしMLBチームが準備不足だったとして、それに対して侍ジャパンがピシャッとやられてしまうことがあったら、最後は旅行気分のような空気になりかねない。最初の試合で相手の状態はだいたい分かりますから、「そんなに準備不足なら帰ってくれ」くらいの勢いで戦ってほしいですね。そうやって最後まで真剣勝負が続けば理想的ですし、侍ジャパンチームにとっても選手たちにとってもメリットの大きな戦いになると思います。
(2018年10月30日インタビュー
文:中里浩章 写真:真崎貴夫)