2018年11月8日
――今回のMLBチームの印象はいかがですか?
(AKI)今回は勝ちにきているから、かなり厄介ですよ。なんせ、MLBチームは、ハワイで時差調整を兼ねた合宿を行なってから日本入りするそうですからね。
――これまで多くの日米野球をご覧になられてきたと思いますが、印象に残っているゲームを教えてください。
(AKI)1986年の日米野球で、MLB代表捕手・ペーニャの二塁送球の印象が強烈でした。座ったまま送球してランナーを刺すペーニャ、どよめくスタジアム。なんとその盗塁を仕掛けたのは、落合博満さんでした。まさかの落合の盗塁…しかし、おそらく落合さんもバリバリのメジャーリーガーから刺激を受け、勝負してみたい、そう思い盗塁を慣行したのでしょう。日本のプロ野球選手たちが大きなモチベーションを与えられる機会こそが日米野球の醍醐味。
――さて、今回はMLBチームに松井さんと前田健太投手が名を連ねましたね。
(AKI)松井秀喜さんがベースコーチとしておそらく1塁ランナーコーチとして立つので、中継では何度もカメラに抜かれることでしょう笑。前田健太投手のマツダスタジアムでの凱旋登板も当然期待されます。
――MLBチームの見どころを教えてください。
(AKI)まずMLBチームを率いるマッティングリー監督。名門ヤンキースで強打者として活躍し、指揮官となった人。日本で例えるなら「アメリカの原辰徳」と言ったところでしょうか。そんなマッティングリー監督が展開する野球はスピードを生かした「スモールベースボール」。侍ジャパンが国際大会で目指す野球をMLBプレーヤーたちがやってくる…恐ろしい光景です。その思惑通り、野手はスピードあるプレーヤーが選ばれています。圧倒的なパワーを生かした強打者よりも、小技もでき、守備力が高く、そして脚力がずば抜けている選手が揃っている印象です。
――おっしゃる通り、厄介な印象ですね。そんな中で注目選手を挙げるとしたら?
(AKI)もちろん、スモールベースボールだけではなく、メンバーの中には、若い、将来のMLBを背負って立つであろうプレーヤーも日本にやってきます。20歳のアクーニャJr.(ブレーブス)とフアン・ソト(ナショナルズ)。アクーニャJr.は様々な史上最年少記録を樹立し、スピード&ホームランが似合うスター候補。ポストシーズンでは史上最年少満塁ホームランも記録しました。もう一人のソトは1998年生まれ。つい先日まで10代選手として堂々とプレーしていました。守備力も非常に高く、22本のホームランをマークした今季。この二人のどちらかが新人王に輝くことは間違いないです。実はその新人王の発表が、日米野球期間中にあるのです。これもみなさん注目です。
――楽しみな若手が来日するんですね。若手以外ではどんな注目選手がいますか?
(AKI)今回のスピード野球の象徴として、アメリカ版スモールベースボールの主役は、内野手のメリフィールド(ロイヤルズ)とロサリオ(メッツ)です。メリフィールドはイチローに並ぶヒットメーカーと評され、両リーグで最多安打のタイトルを獲りました。ロサリオはショートから信じられない球筋のスローイングを見せてくれるでしょう。球速を測ったらおそらく150kmは出ていると思います。日本のファンのみなさんに是非観てもらいたい選手です。
――続いて、投手陣はいかがでしょうか?
(AKI)MLB投手陣の動くボールを是非テレビ中継で見てもらいたいですね。日本の投手とは違うムービングボールを楽しんでもらいたい。例えば、ゲラ(ブルワーズ)はボールを打者の手元で動かしてなんぼという投球スタイルだし、マキュー(アストロズ)のスライダーの曲がり方などは必見です。そんな投手陣は先発、中継ぎ、抑えをバランス良く揃えたチーム。ゲームをしっかりと作り、最少失点差で切り抜け、最後はサンディエゴパドレスの守護神・イエーツで逃げ切るという戦略。チームとして、とにかくオールドスタイルの野球、基本に忠実なベースボールにこだわるマッティングリー監督。そこに稲葉ジャパンがどう対応するのか…日本のスモールベースボールか、アメリカMLB版スモールべースボールか。まさにこれは「闘い」です。
――投手野手ともに見どころの多そうなMLBチームですが、AKIさんのイチオシを教えてください。
(AKI)モリーナ(カージナルス)は3年契約が切れる2020年に引退することを表明しています。そのモリーナが日本でプレーする姿を見ることができるのは、おそらく今回の日米野球が最後です。歴史に残る名捕手を生で見るチャンスはもうないですから、是非そのプレーを目に焼き付けておきたいですね。
――MLBを誰よりも知るAKIさんだからこその視点で、是非知ってほしいという選手はいますでしょうか?
(AKI)今回、MLB代表の投手陣で最も速い最速155キロを投げるノリス(タイガース)でしょうか。彼の入団時の契約金は約2億円なんですが、そのお金で最初に購入したのは中古の自動車で、80万円のバンだったんです。何と彼、オフはそこに暮らしています。また、月に使うお金はなんとたったの800ドル。日本円にすると約10万円。最低年俸が日本円で7,000万を超えるMLBの世界に存在する、嘘のような本当の話。ちなみに彼はトレーニングも最新鋭のものを取り入れないんですよ。例えば、ウエートトレーニングしたい時は、山にこもって重たい丸太を持って鍛えたり、持久力を鍛えたい時は、テネシーにある実家の自転車屋さんの自転車に乗ってずっと走り続けたりしているんです。そして、さらに、カメラはプロ級の腕前だったりする。日本に来て彼が撮る写真にも注目したいところです。MLBは色んな意味で奥が深いですよ。
――MLBでプレーしている選手のエピソードとは思えないですね。
(AKI)他には、今回のMLBチームで一番打球を飛ばす能力に長けている長距離砲のホスキンス(フィリーズ)。来シーズン、ホームラン王を獲る可能性もあると言われる選手です。実は彼のお母さんのキャシーさんは弁護士だったんです。ただ、彼が2歳の時に乳がんになって、それ以降ずっと闘病をしていたそうなんですが、そんな中「リース、あなたがメジャーリーガーになったら、私はあなたの代理人になる」と、彼の野球をずっと応援し続けていたそうです。残念ながらキャシーさんは、ホスキンスが16歳になる1日前に亡くなってしまいました。そんな彼がいまや100億円規模の契約を結ぶ可能性のある選手までなったということは、キャシーさんが生きていたらきっと喜んでいたでしょう。MLBの選手は、それぞれに独特の個性、パーソナリティーを持った選手が多い。そういった部分も魅力ですよ。
――選手のそんなエピソードまで聞けるとは思っていませんでした。試合以外でも楽しみが多そうですね。
(AKI)あと、選手以外の話で言うと、近年のトレンドである「フライボールレボリューション」や「極端なシフトを引く守備」などは、すべてヒューストン・アストロズから生まれていると言われています。今回アストロズからピッチングコーチとして来日しているストロムコーチに、そういった戦術についての話を聞くことができると、今後のMLBのトレンドに触れることができるかもしれません。もしそんなことまで見ることができたら、非常に面白いですけどね。
――最後に、日米野球をどんな風に見てほしいですか?
(AKI)鳴り物のないスタジアムの雰囲気をぜひ感じてほしいですね。日本のファンにもMLBのコアなファンの方も多いと思いますので、一球一球に対して起きる歓声が、ゲームが白熱していく中で自然発生的に起きると思います。その先にあるMLBの「ボールパーク」的な雰囲気を日本の球場でもきっと感じとることができる機会になるはずです。是非、球場でも、テレビ中継でも楽しんで頂きたいと思います。
(文:田中大貴 写真:土肥飛翔)