INTERVIEW

2018年11月9日

【2018日米野球】
日米通算170勝、日米野球では日米で代表を経験
岩隈久志投手にインタビュー

今シーズンまでマリナーズに所属し日米通算170勝をあげた現役右腕。かつてWBC日本代表として国際舞台でも大活躍を見せたが、実は日米野球では日本代表としても、MLB代表としてもその舞台に立っている。そんな稀有な経験を持つ岩隈投手に、日米野球について語ってもらった。

――会いたかったです、岩隈君。とりあえずお帰りなさい。元気そうですね!

(岩隈)ご無沙汰してます。元気にやってます。

――シアトルでのセレモニーも結構前に感じるね。

(岩隈)引退するわけではないんですけど、ありがたかったですね。しかも、イチローさんがキャッチャーとして受けてくれたんですよ。まさかキャッチャーをやっていただけるとは。最高の時間でした。

――改めてアメリカの野球を振り返ってみて、どのように感じていますか?

(岩隈)あの空気感、勝負勘、力と力の勝負、様々なものが日本ではなかなか経験できないものだと感じてます。テクニックもパワーも両方必要とされる舞台ですね。

――日本の野球とは全く違いますか?

(岩隈)日本のスタイルは、僕は非常に好きです。ただメジャーは力と力の中でもデータ重視。そこに面白みがありました。

――もうすぐ日米野球が開幕します。岩隈君は日本プロ野球時代にMLBチームと対戦して、MLB時代に日本プロ野球チームと対戦しているという貴重な投手。両方の観点から日米野球をどのように見ていましたか?

(岩隈)日本にいた時は、彼らは一体どんな打ち方をしてくるんだろう、どんなスイングをしてくるんだろうと興味津々でしたよ。マリナーズ時代に日本に来たときは、日本のファンの皆さんの前で投げさせてもらえることに誇りを感じていました。調整が非常に大変でしたけどね笑。

――MLBベンチは試合中、どんな話をしてたか覚えていますか?

(岩隈)日本のあの選手は良い選手だねとか。特に投手の話で盛り上がる傾向にありますね。2014年の時は、則本君、金子君に関しては特にみんな興味津々でした。「アメリカに持って帰りたい!」と言ってましたよ笑。野手では菊池君の守備に興奮していましたね。

――岩隈君が今回、日本人選手で注目している選手はいますか?

(岩隈)ソフトバンクの柳田君ですね。あれだけ振れるのは純粋に凄い。

――日本シリーズは見てました?

(岩隈)見てましたよ。スイング的にアメリカでもやれると感じました。特に逆方向に持っていけることが、向こうである程度打率を残せるかどうかのポイントになる。さらに打球角度も高く打ち上げられるので、今のメジャーのトレンドに合ってますね。体の近くで捉えられる柳田君の打撃が、MLB投手陣の動くボールをどう捉えるか注目したいと思います。

――ほかにバッターだと誰を見たいですか?

(岩隈)例えば西武の外崎君・源田君・山川君の3人、それぞれ特徴の違う選手ですが、どうメジャー相手に対応するかも見たいですね。外崎君であれば、どうスピードのあるインコースの動くボールを捌くか。源田君であれば、メジャーの捕手相手にどう脚でかき回すか。山川君は動くボールへの対応と。特に山川君のような、足を上げて打つ打者に対しては、MLBバッテリーは上手く変化をつけてくるはず。いろいろ見てみたいですね。

――巨人でブレイクした岡本選手は見たことはありますか?

(岩隈)少しだけ見ました。どっしり構えますよね。しっかりとスイングできる選手だなと思いました。こんないいバッターがいたんだと。ポイントは山川君と同じで動くボールへの対応ですね

――MLBチームに目を向けてみましょうか。まず、先ほど言っていた、足を上げるバッターに対してタイミングを外すリードというのは、どういう感じなんですか?

(岩隈)ベテランのモリーナなんかはその辺り非常に上手いんですけど、足を上げて打つバッターの時は、あえてピッチャーにクイックで投げさせたりする。ボールの緩急だけでなく、タイミングを外すのが本当に上手いです。2013年のWBCは彼にやられたと僕は思っています。

――岩隈君は、マリナーズでたくさんのキャッチャーとバッテリーを組んできましたよね。キャッチャーの特徴ってありますか?

(岩隈)たくさんのキャッチャーと組ませてもらいましたけど、僕はどちらかというとラテン系のキャッチャーの方が好きでしたね。

――え?人種や国籍で違ったりするの?

(岩隈)基本的にMLBのキャッチャーは、リード面よりも打てるかどうかが評価対象。リードはその次という感覚なんです。だから、基本的にはオーソドックスなリードをするキャッチャーが多い。そんな中、今回の代表でもあるモリーナやチリーノスは、裏をかいたり、駆け引きが上手い。ゲームの流れを読むのが上手い選手がラテン系には多いんですよ。

――そんなに違うんだ。ちなみに日本シリーズでMLBを獲得したソフトバンクの甲斐のプレーは見ました?

(岩隈)見ました!面白いキャッチャーが出てきましたね!肩も抜群ですが、リードが僕は面白いと思いました。セオリー通りの配球をしないタイプですね笑。同じボールを4、5球とことん続けたりする…ほかにはいないタイプのキャッチャーだと感じました。

――岩隈君の好きなタイプ?

(岩隈)好きですね。投げていて面白いと思える選手だと思います。ランナーを出しても捕ってから速いし送球も力強い。頼もしいですね。

――さあ、それでは本職の投手に関してですが、今のメジャーのトレンドはどういった状況ですか?

(岩隈)今は横の変化よりも縦の変化が有効だというのがメジャーのトレンドですね。僕もここ数年は、落ちるボール、スプリットをいかに生かすかということに終始していました。ただ、打者もデータがインプットされているのでなかなか振ってはくれない。芯を外すボールを作ることに尽力していましたね。

――横の変化はどうですか?

(岩隈)スライダー系だと数種類必要ですね。曲がりの大きいもの、小さいもの。あとは特殊球と呼ばれるその人しか投げられない独特の曲がりを見せるボールですね。

――150キロ台を投げられて、プラスαでその変化球の要素を持っていないといけない…やはり相当ハイレベルですね。

(岩隈)あとは、やはりバッターの対応力が非常に高いので、2巡目と3巡目でハッキリと反応に差がありました。メジャー打者の3巡目は、打率が一気に上がる。ここ数年は6回3失点というクオリティースタートにいかずとも、3巡目に入るところでキッパリと先発投手を変える傾向も増えています。

――やはり恐ろしいですね、MLBは…

(岩隈)何が違うって、スイングが圧倒的に速い。メジャーと3Aの差はスイングスピード。メジャー投手の速い真っすぐに対応できるスイングを持っているかどうかで運命は変わりますね。3Aでホームラン30本を打つけど、メジャーではホームラン10本程度…やはりスイングスピードが圧倒的に違いましたね。

――その強打者と対戦する日本の投手陣ですが、打ち取り方のポイントはどこですか?

(岩隈)日本の投手陣は今回、チェンジアップを投げる選手が多く選ばれているので、このボールを上手く使って欲しいと思います。

――今年から楽天に移籍した岸投手は面白いと思いますがどうですか?

(岩隈)岸君はチェンジアップも含めてそれぞれの変化球の質が非常に高い。だからこそ真っすぐで不用意にカウントを取りに行かないこと。簡単にストライクを取りにいくと怖い。チェンジアップを上手く使って欲しい。追い込んでからは高めの真っすぐを上手く使いつつ、彼が投げる独特の縦カーブは効くと思います。

――配球の組み立てはかなり楽しみですね。今回、日本にやってくるメジャーの投手陣は全体的にどう分析しますか?

(岩隈)メジャーは今、投手陣のボールが年々速くなっていると実感しています。先発が下りた後の中継ぎ、抑え投手陣は、ほとんどの選手が95マイル以上投げる。その中に必ず100マイル投手がいる。三振率が上がっていると思います。追い込んでからの落ちるボール、ウイニングショットはスプリットを持つ投手が増えている傾向なので、日本人打者の対応力に期待したいです。

――やはりメジャーリーグは今のトレンドというのがダイレクトに見える場所なんですね。よくわかりました。それでは最後に改めて日本人選手にとって日米野球はどんな舞台ですか?

(岩隈)自分の評価を確認できる場所であり、野球選手としての自分の現在地を確認できる舞台。それが選手たちにとっての日米野球だと感じています。僕もまだまだ可能性がある限り、プレーを続けて挑戦していきたいと思っています!

――ありがとうございました。来季の岩隈久志にも期待しています!

(岩隈)ありがとうございます!いい歳になってきましたが頑張ります!(笑)

(文:田中大貴 写真:真崎貴夫)

岩隈 久志
1981年4月生まれ。
堀越高校から1999年ドラフト5位で近鉄に入団。 近鉄、楽天でエースとして活躍し、NPB通算107勝。 2012年にシアトルマリナーズへ移籍し7年間でMLB通算63勝。 2018年にマリナーズを退団。怪我からの復活を目指しトレーニング中。

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