「第12回 BFA U18アジア選手権」に出場している侍ジャパンU-18代表。9月10日、中国との3位決定戦を14対1(7回コールド)で勝利し、銅メダルを獲得した。今大会は来年のU-18W杯(開催地は韓国に内定)の出場権(アジアの出場枠は3)がかかっており、最後の1枠をつかむ形となっている。
序盤は重苦しいムードだった。初回、中国に先制を許し、その裏、日本は併殺崩れの間に同点。一気に勝ち越したいところではあったが、負の連鎖をなかなか断ち切ることができない。
「韓国、チャイニーズ・タイペイと初回に先制されていたので、(今日も)非常に嫌な流れだった」
この雰囲気を振り払ったのは「九番・DH」の日置航(日大三)のバットだった。1対1の2回裏二死一、三塁から中前適時打。KIRISHIMAサンマリンスタジアム宮崎のスコアボードに「Hランプ」が灯ると、スタンドは大盛り上がり。記者席で取材する複数の記者からも、拍手が沸き起こった。
今大会14打席目にしての初安打で、三塁側の日本ベンチも大喝采で祝福。チーム全員が、日置のヒットを待ち望んでいたのだった。
日大三では遊撃手として2年春、3年春、夏の甲子園出場。ディフェンス力の高さには定評があったが、今大会は報徳学園・小園海斗をショートで固定していたため、日置はこれまで経験のない一塁、DHで出場した。また、ゲーム形式のシートノックでは二塁、三塁に入ることも。8月26日の結団式では「内野はどこでも守れます。チームに貢献できるように、自分の力を出し切りたい」とアピールしていたが、その言葉通り、献身的な動きは、プラスの効果をもたらした。永田監督は主将・中川卓也(大阪桐蔭)を支える副将3人(ほか大阪桐蔭高・根尾昂、浦和学院高・蛭間拓哉)のうちの一人に日置を指名している。
大会前の練習日では、小針崇宏コーチ(作新学院高監督)と付きっきりで、一塁ノックを受けてきた。地道に努力する姿勢を見てきたからこそ、永田監督は香港との一次ラウンド初戦に「八番・三塁」で先発起用している。
「最初はずっと一塁をやらせてきたが、光らせてやらんとイカンと思った。頑張っている子なので」。香港戦は19安打26得点を挙げた中、日置は先発で唯一無安打も、3つの四球を選んでいる。翌日のスリランカ戦(九番・一塁)も4打数無安打だったが、韓国との一次ラウンド最終戦も「九番・DH」で先発出場。安打こそ出なかったものの、1犠打、1四球と渋い働きを見せてきた。
「打てなくても、やれることはある。とにかくチームに貢献できればいい。4打数無安打の次の日も、監督は使ってくれた。期待をしてもらっているので、1本ほしいところで出せればと、何とか応えたいと思っていました」
チャイニーズ・タイペイとのスーパーラウンド第1戦(九番・DH)も2打数ノーヒット。打席に入るたび、記者席においても日置への〝声援〟は日増しに大きくなっていた。どんな状況でも、絶対に下を向かない。8打数無安打で迎えた中国との3位決定戦で、ようやく結果を残したのである。日置の「個人の1本」ではなかった。「チーム全員の1本」。韓国戦とチャイニーズ・タイペイ戦は拙攻続きでタイムリーが1本も出なかっただけに、日本を勇気づける適時打でもあったのだ。
「今日が最後の試合。チームに迷惑をかけ続けてきたので、打った瞬間に『抜けろ!!』と思いながら走った。勝利に貢献できてよかったですし、抜けて点が入ってうれしかった」
限られたメンバーであるが、我慢の起用を続けた永田監督の喜びもひとしおである。
「最初(初安打)だったので盛り上がりました。(二塁打?)よく飛びましたね。スタッフとは昨日の練習を見た上で、日置で行こうと決めました」
この一打で本来の振りを取り戻した日本打線9対1で迎えた6回裏に1点を追加した後、日置が中越えの2点二塁打と、コールド(7回10点差以上)を決める一打(12対1)を放ち、さらに2点を加えている。
投げては1回途中、先発・板川佳矢(横浜)が1失点した後に救援した大阪桐蔭・柿木蓮が6回まで1安打に抑え、相手に主導権を渡さなかった。13点リードの7回表の1イニングは根尾が自己最速150キロを計測し、すべてストレートで押して、3人で締めている。
この最後の一戦、もう一人、特別な思いで臨んでいたのが、報徳学園・小園海斗だった。韓国との一次ラウンドで3失策を犯すと、チャイニーズ・タイペイとのスーパーラウンドでも1失策と、動きに精彩を欠いていた。報徳学園で2年春のセンバツまで小園を指導した永田監督は明かす。「メチャクチャ、この何日間で練習した。一番カベにぶつかっていた。実は変更も考えました。根尾にしても良いかと。DH、三塁、二塁、外野をやらせても……自分のところの選手なので、そこまで考えた。ただスタッフ(コーチ)3人が『ここまで来て、代えないでいい』と。入念に打ち合わせをしてきました」。気持ちを切り替えた小園はこの日、3安打2打点。持ち味の足を生かしてバント安打を決めるなど、遊撃守備でも軽快な動きを見せている。小園は言う。
「(雨天中止だった)2日間、準備してきて、やるしかないと思っていました。気持ちの整理はできていた。自信はありました。3位という結果には満足していない。(昨年から)2回、経験させてもらい、人生ですごく大きな経験になった」。指導陣の決断は正しかった。ミスを背負ったまま大会を終えるのではなく、次につながる意味でも、意義のある銅メダル獲得となった。
また、前日は「投手9人全員で戦っていく」と語っていた永田監督だったが、実は金足農高・吉田輝星の登板は「まったく考えていませんでした。これだけ疲れている中でよう頑張った、と。お前の将来をつぶすわけにはイカン、という話をしました」と明かした。吉田は「2試合ともダメな投球で、(中国戦)で取り返そうと思っていましたが……。未来を向いて、次のステージでこの2試合を取り返せるようにしたい。チームとしては3位で次につなぐことができましたが、良いピッチングができなかった。もっと成長してまた、日の丸を背負ってプレーしたい」と前を向いた。
今大会3位により、来年のU-18W杯の出場権を獲得。「『次世代につなぐ』を合言葉に、よく頑張ってくれた。このアジア大会を糧に(3年生)17人は大きく育ってほしい。(2年生の)奥川が次に続く。次の大会へ向けて一つでも大きく成長してほしいと思います」。任期2年の永田監督は18人に労いの言葉をかけた上で「反省は多々ある。よく考えた上で(課題を)整理したい」と語り、この悔しさを2019年に生かしていくことを誓った。
監督・選手コメント
永田裕治監督
「調子の良さから板川を先発で使いましたが、試合前から気負いまくっていました。アップのときから興奮していましたので……。2番手は、最初は根尾で行こうかと思いましたが、DHが消滅してしまうので、柿木でいこう、と。スクランブルで左対策で山田(龍聖、高岡商)も準備させていた。柿木がよう踏ん張ってくれた。小泉(航平、大阪桐蔭)がよう、ショートバウンドを捕球してくれた。(セカンドの)奈良間(大己、常葉大菊川)の守りも大きかったです」
根尾昂
「(自己最速を1キロ更新する150キロは)指にかかっていたので、投げた瞬間、後ろを見ました。チームメートが『ナイスピッチング!!』と言ってくれましたが、そんなにすごくない。もっと、良いピッチャーがいましたので……。(7回は)相手も真っすぐがくると思っていたようなので、力でいきました。(点差が広がっているので)決まり事だと思います」
柿木蓮
「強い気持ちを持って投げました。悔しさが強い大会です。でも『経験』という意味で考えたら、こんな素晴らしい選手たちとプレーできたのは、ものすごく大きい財産です」
藤原恭大
「個人としても課題を残したまま終わったと思う。木製バットは、上の世界へ行ってからでないと使えないので、すごく良い投手と対戦させてもらい、良い経験になりました」
第12回 BFA U18アジア選手権
大会期間
2018年9月3日~9月10日
グループA
9月3日(月)18:00 日本 26 - 0 香港
9月4日(火)18:00 スリランカ 0 - 15 日本
9月5日(水)18:00 日本 1 - 3 韓国
スーパーラウンド
9月7日(金)18:00 チャイニーズ・タイペイ 3 - 1 日本
9月8日(土)18:00 日本 (中止) 中国
3位決定戦
9月10日(月)13:00 日本 14 - 1 中国
開催地
日本(宮崎)
出場する国と地域
グループA
日本、香港、韓国、スリランカ
グループB
中国、チャイニーズ・タイペイ、パキスタン、インドネシア