8月10日、東京都内のグラウンドで侍ジャパン社会人代表の強化合宿が始まった。同代表の最大の目標となるのは2022年9月に中国・杭州市で行われる予定のアジア大会での金メダル獲得。昨年は新型コロナ禍によって強化活動は一時停止を強いられてしまったが、その目標に向けてこの夏から再始動した。
7月には若手選手を中心とした全日本ジュニア合宿を行い、この合宿では国際大会の経験が豊富な選手たち24人を招集した。
この合宿では個々の能力の向上や把握を主な目的とし、メディカルチェック、体力測定、投球や打球の測定、メンタルトレーニング研修、個別練習を数班に分けてローテーションさせながら行われている。
今日はその中のメンタルトレーニング研修を紹介する。
この研修はスポーツ心理学者で6月から日本野球連盟の競技力向上委員も務める布施努氏が選手たちに講義をする形で行われた。個別のサポートはこれまでもあったが、社会人代表全体にこうして講義をするのは初めてで、今日はまず7人が受講した。
今回、布施氏が伝える上で大事にしたのは「トップになるために必要なこと」だ。旬のオリンピック選手の話や日米打者の考え方の違いなど選手たちにとって身近な例を挙げながら、物事の考え方や心構えで大切なことを説いた。
「試合で緊張するのは当たり前ですし、“こんなことが起きてしまいそう”とか“あいつ強そうだな”と思うのは普通のことで、これはリスクマネジメント。重要なのはそこからの対応策なんです。それをまず伝えるようにしました。その気づいたこと(緊張や恐怖心)に対して目を背ける必要はまったくないんです」
その中で大事になってくるのは“役割性格”と称される考え方だ。仕事を果たすために自らの役割を“演じる”ことだという。
「例えば試合も素の自分で戦ったらキツいんですよ。でも、その演じ方(どういう心持ちで立ち振る舞うべきか)を監督と話し合いながら決めていく。そうすれば試合中も(怒られたり失敗しても)自分の演じ方が足りないんだと、前向きに取り組めるようになる。こうした構造をみんなに分かって欲しいと思いました」
また、配布物をただ見ることやコンピューターに打ち込むよりも、言葉を咀嚼して手でメモを書くことの方がりインプットしやすく、それをまた共有するなどアウトプットしやすくなるため、『侍ジャパンノート』を配布。各選手たちが情報を整理し、自分や周囲に落とし込んでいくことの大切さも伝えられた。
研修を受けた1人の佐藤旭(東芝)は「成長するためのきっかけを、心理学という点から作っていただき、自分たちが持っていなかった考えに触れることができました」と感謝した。
科学的な分析や研修によって、この3日間の合宿はとても有意義なものになりそうだ。
監督・選手コメント
石井章夫監督
「2019年からチームに求めているのは“個々の能力をどう向上させるか?”ということです。アジア大会、アジア・ウィンター・リーグ、アジア選手権で感じた台湾や韓国(両チームはプロ選手も参加)との力の差を、特にパワーとスピードで感じていますので、そこに正面からぶつかっていけるようなチャレンジをしていきます」
佐藤旭(東芝)
「昨年は代表活動がまったくできなかったのですが、久々にこうやってみんなで集まることができて身が引き締まる思いです。来年のアジア大会に向けて、またスタートしたんだなという思いと、こういう状況下での合宿に嬉しさと感謝の気持ちです。様々なことにチャレンジしながら、アジア大会までの1年間を有意義に使っていきたいです」