"野球の未来へ" 宮本慎也氏が語る「野球の未来」
2016年10月13日
野球界の著名人に“野球の未来”を聞く本連載。第3回目は、2013年まで東京ヤクルトスワローズで活躍し、アテネ五輪、北京五輪では日本代表チームのキャプテンを務めた宮本慎也氏が登場。品川区の源氏前保育園での野球教室終了直後に、“未来”に向けて臨むべき今後の課題について聞いた。
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「野球をする」が子供たちの選択肢になるように
――お疲れ様です。子供たちは元気一杯でした。今回のような子供を相手に野球教室を開くことの意図は、どういったところにあるのでしょうか?
「現役から引退すると、日本の野球人口が減っているということが顕著に分かる。言い方は悪いかも知れませんけど、サッカーを始めとした他のスポーツに獲られている。このままだと10年、20年先には日本野球のレベルが下がってしまうことが考えられる。そこで何かできないかと考えていた中で、『マネースクウェア・ジャパン』の協力で、今年からこのような取り組みをできるようになりました」
――昔とは子供たちが野球に接する環境が大きく変わったと思います。
「もちろん変わりましたね。サッカーもそうですし、テニス、ゴルフに、去年はラグビーが盛り上がりましたし、今年は新しくバスケットのBリーグも始まった。黙っていても子供が野球をやるという時代は終わりました。野球はルールも難しいですからね。でもその中でも野球の楽しさを純粋に感じてもらうことはできる。まずはボールを打つこと、そして投げること。そこから始めて、野球というスポーツを身近に感じてもらえたらと思います」
――まだ野球を始めるには早い保育園児や幼稚園児を対象にしていることに理由はあるのでしょうか?
「普通の野球教室は、もうすでに野球を始めている子供たちが対象なんですよね。野球がうまくなりたい子供たちに対して、正しい技術だったり、練習方法だったりを教えるものです。でもその前に、野球に興味を持って、野球を始めてもらわないと野球教室には来てもらいない。今日も子供たちは楽しそうでした。これをキッカケに、子供たちが野球というものに興味を持ってもらって、子供たちが『野球をやりたい』って言ったらすぐにできる環境が保育園や幼稚園にあればうれしい。そして小学校に上がったときに、『野球をする』ということが子供たちの選択肢の中に入ってくれればと思います」
――宮本さん自身は何がキッカケで野球を始めたのですか?
「僕は父親の影響です。初めはキャッチボールです。でも今はお父さんとキャッチボールをしている子供たちがすごく少なくなった。少年野球のチーム数も減って来ているし、野球ができるグラウンドも毎週、使用できるかどうかの抽選があったり、それに外れたから近くの公園で練習しようと思っても野球が禁止だったりする。野球をやる環境が昔よりも少なくなったことで、野球に興味があっても他のスポーツを選択する子供というのも多くなったと思います。昔はみんな、一度は必ず野球の道を通っていましたし、クラスで一番運動神経のいい子は野球をやっていましたけど、それが今は違いますからね」
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子供たちと親、そして侍ジャパン
――野球人口の減少は問題ですが、その一方でプロ野球の球場は今季も連日に渡って多くのファンが応援に駆け付けました。人気面では一概に低下しているとは言えないのではと思いますが?
「確かに球場自体にはファンの方が多く集まっていますし、盛り上がっています。まだまだ人気面では維持しているでしょう。ですけど、それは“観るスポーツ”という意味でだと思います。実際に“プレーするスポーツ”としてはサッカーとか他のスポーツの方に逆転されてしまっている。その部分に今から力を入れて行かないと、将来的に競技のレベルが下がってしまうし、そうなると魅力もなくなってしまう。今から取り組まないといけない」
――子供たちが野球を続けるには、親の協力も必要になって来ると思います。
「そうですね。ほとんどの子供たちは僕たちのことを知らない。だからお母さんたちを取り込まないといけないと思っています。親御さんたちだと僕のことも知ってくださっている方も多いと思いますからね。その意味では、現役の選手たちにもいろんな活動をしてもらいたい。野球教室で技術を教えることもいいですけど、そのもう一つ手前のところで、保護者参加の学校訪問などをしてもらいたい。例えば坂本(勇人)が、『お母さん、子供に野球をやらせましょう!』って直接言ったら、『そうですね!』ってなるでしょう(笑)。何度も言うようですけど、子供たちにどうやって野球を始めてもらうかを考えないといけない」
――以前よりも共働きの世帯も増えてきて、その中での難しさもあると思いますが?
「一つの問題として、シニアのチームなどでの過剰な協力があると思います。親が練習の手伝いだったり、何かの当番だったりをしないといけない事実がある。もちろん自分の子供が所属しているチームへの協力は必要でしょうけど、それがあまりにも大変で、負担になってしまうといけない。実際、それを嫌がって野球をさせない親も多いですし、それが理由で野球人口を減らしている可能性がある。ここはアマチュア球界の指導者たちに考えてもらいたい部分です」
――そのアマチュア球界も含め、新たに「侍ジャパン」というものが発足したことでの影響についてはどう考えていますか?
「子供たちにとっては新しい目標ができて、モチベーションは間違いなく上がると思います。ただその分、トップの選手たちが日本代表という名にふさわしい姿を見せてもらいたい。勝つということだけではなくて、普段の行動や言動、練習態度といったところも含めて、子供たちの良きお手本になってもらいたい。良い悪い関係なく、子供たちはすぐに真似をします。自分の影響力を考えて、子供たちのお手本だという意識を持ってプレーしないといけない」
――2020年東京五輪での野球復活も決まりましたが、日本野球の未来というのは明るいでしょうか?
「明るくない、と思いますよ。東京五輪では野球競技が採用されましたけど、その次の五輪では現状のままでは野球がまた正式競技から外される可能性が高い。東京で勝つということも大事ですけど、その次以降にどう繋げていくかということの方が大事。ひとつの目標に向かって野球界が一体化して行かないといけない。侍ジャパンが主として、試合に勝つためだけではなく、野球界全体の発展のために活動してもらいたい」