文・写真=辰巳 知行
野球選手が300人。町の少年野球大会の入場行進ほどの人数だが、何を隠そう、大人も子どもも合わせたセルビアにおける野球の競技人口である。つまりは、超マイナースポーツなのである。程度の差こそあれ、中東欧諸国は似たり寄ったりの現状と言って差し支えないであろう。
30年ほど前にセルビアに野球が「伝わって」以降、競技人口はジリジリと増加してはいるものの、大きな広がりを見せるには至っていない。新参スポーツが市民権を獲得して行くことは、やはり並大抵のことではないようである。それでも、少しずつチーム数が増えていることは喜ばしい限りである。
2017年現在、セルビアには5つのクラブチームがある。セルビア国内リーグが90年代初頭に2チームでスタートしたことを考えると、四半世紀ほどの間に3チーム増えたことになる。これが「普及」として速いのか遅いのかは意見が分かれそうだが、少なくとも後退はしていない。余談だが、ヨーロッパにはいわゆる「学校スポーツ」というものがなく、スポーツ活動は地域のクラブチームが担っている場合が大半である。
代表的なクラブチームを紹介しよう。
ベオグラード96
草創期の2チームが合併し、96年に設立された。拠点は首都のベオグラード市。セルビアを代表するチームと言ってよいであろう。昨年、インターリーグ(中東欧の地域リーグ)のプールBからAに昇格し、今年はよりレベルの高いチームに揉まれて奮闘している。筆者が選手兼テクニカルコーチとして足かけ7年ほど所属していたのもこのチームである。
ベオグラード96 下段右から2人目がミラン主将 上段左端が筆者
ヴォイヴォディナ
95年にセルビア第二の都市ノヴィサド市を拠点に設立された。昨年のセルビア国内リーグでは、首位のベオグラード96に次いで準優勝。インターリーグのプールBに2016年から参加しており、着実にレベルアップしてきている。因みにVojvodinaは、セルビア北部の地域名。
ヴォイヴォディナ 上段左から3人目がゴラン主将
ヴォイヴォデ
95年にベオグラードの近隣都市ゼムン市を拠点に設立された。セルビア代表のエースを擁し、打線も強力ながら、守りが課題のチーム。過去にはセルビア国内リーグを制したこともあったが、近年は苦戦を強いられている。因みにVojvodeとは、英語で言うDuke。
ヴォイヴォデ 上段左端がモモ主将
少年野球チームは大小含めて8つほどあり、国内でのリーグ戦とトーナメント戦に加え、U-12、U-15、U-18等の国際試合にも積極的に参加している。
セルビアU-15の代表選手たち
2017年シーズンから、日本人の竹内俊輔選手がベオグラード96でプレーしている。大学卒業と同時に未知の国の野球チームに飛び込み、言葉の壁を乗り越えながら、チームの一員として活躍している。
インターリーグで投げる竹内俊輔選手
昨今、いくつかのソフトボールチームも誕生し始めており、野球・ソフトボールの裾野は徐々に広がりつつある。
ソフトボールクラブチーム、ワイルドキャッツ
セルビアは人口700万人程度ながら、多くの球技(テニス、バスケットボール、バレーボール、水球、ハンドボール等)で世界の上位にランクされる球技大国であり、ボールを扱うスポーツには滅法強い。彼ら彼女らの後輩たちが、日本のプロ野球や社会人リーグでプレーしたり、セルビア代表と侍ジャパンが予選を戦ったりする日が来ることを想像し、ほくそ笑んでしまうのである。
次回は、セルビアが参加するインターリーグ(中東欧の地域リーグ)や欧州選手権についてお伝えする予定である。
- 2018年7月24日 「セルビア高校野球代表、日本へ(第1回遠征編)」
- 2018年1月25日 「セルビア高校野球代表、日本へ(経緯編)」
- 2017年8月30日 「セルビア野球との出会い」
- 2017年7月11日 「セルビア野球と国際リーグ」
- 2017年6月22日 「セルビア野球チームの紹介」
- 2017年5月19日 「野球の伝播」
- 2017年4月11日 「セルビアってどんな国?」
著者プロフィール
- 辰巳 知行(たつみ ともゆき)
- 1968年10月18日生まれ
バルカン地域に勤務していた2000年代、誕生間もないセルビアの野球と出会う。以来、コーチ兼選手として、同国における野球の発展と普及に取り組む。セルビア高校代表チームの日本遠征を企画・実施する等現在も協力を続けており、いつの日か、セルビア代表が侍ジャパンに挑戦できる日が来ることを夢見ている。大阪府立北野高校野球部99期主将。
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