監督として初めてユニホームに袖を通した今大会。中学生を指導することも初めてでしたし、チームが揃って3日後に大会本番を迎えるというのも、長い野球人生で初めての経験でした。さらに「日の丸」を背負っての戦いですから、その責任や重みは、監督の打診を受けた時から大会を終えるまで変わることはありませんでした。その中、チームのテーマに「『日本代表』を意識して行動すること。勝つために個々に何ができるか考え戦うこと」を掲げ選手に伝えました。選手たちがそれらを実行し、日ごとにまとまり団結していく姿は非常にたくましく、全員で掴んだ優勝は格別でした。監督業の喜びを感じた瞬間でした。
さて初物尽くしの今大会、揃って練習できるのが2日間だけと、とにかく時間が限られた中でチームを作り上げる必要がありましたので、いくつか工夫も凝らしました。その一つが現役時代を共にした3人の臨時コーチの起用でした。投手を高橋尚成、野手の守備・走塁を古城茂幸、捕手を加藤健の各コーチが技術指導しつつ、同時に技量の見極めや起用方法の助言をもらいました。もちろん中学野球の現場から代表チームに就いてくれた投手出身の徳元敏コーチ(東練馬リトルシニア監督)、野手出身の堀田将司コーチ(愛知港ボーイズ)も中学生指導のプロですから、練習メニューの作成から試合で使うサイン・作戦の絞りこみなど中学野球の実態に即したチーム運用を担っていただき、短時間でのベストを追求しました。
もう一つは選手とのコミュニケーションです。メンバーは各チームの主力ですが、4番に座っていた選手が日本代表では下位打線に並ぶこともあるし、当然18人のうち半数はベンチで試合開始を迎えることになります。チームをサポートしながら途中出場に向けた準備をするという経験は所属チームではなかったことかも知れません。しかし勝敗は先発だけでなく、控え選手を含めたチーム力によって左右されるもの。場面によっては途中出場の選手の役割が先発以上に重要になる時もあります。ですから、打順を下位に据えた意図であるとか、なぜ中継ぎや抑えで登板させるのか、選手の特長やゲームで果たして欲しい役割などを伝えていき、選手が疑問を持つこと無くグラウンドに出て行ける環境つくりを意識しました。
最後はキャプテンの選任について。これは工夫というよりも閃きに近いものでした。キャプテンに指名した南雲壱太君(浦和リトルシニア)に初めて会ったのは松山集合前日の公式記者会見の日。その時、強く印象に残ったのが論点を整理して自分の考えを話す姿でした。ちょっとした振る舞いや仕草にも中学3年生とは思えない非常にしっかりしたものを感じました。私自身、色々な人間を見てきましたが「人間性」は長く付き合って分かるもの。会って数時間でそれを印象付けたインパクトは大きく、この時には「キャプテン・南雲」を心に決めていました。


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
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そして迎えた初戦。松山市選抜を相手に先発を託した諸隈惟大君(佐倉リトルシニア)は、立ち上がりこそ制球を乱し失点と、硬さを見せるものの、徐々に試合感を戻すと4回1安打9奪三振と本来の力を発揮。打っても3安打6打点の投打にわたる活躍で、終わってみれば7回コールドで勝利。二戦目のオーストラリア戦では、前日までの緊張感から解き放たれたナインが序盤から攻勢をかけ5回コールドで連勝としました。
このチームの集大成を感じさせたのが優勝をかけた第三戦のチャイニーズ・タイペイ戦。
チームをまとめることに奔走していた南雲君は2試合を終え先発出場した選手で唯一無安打でした。前日のオーストラリア戦終盤には、凡退してベンチに戻ると誰にも悟られないようにグッと歯を食いしばり悔しさを堪えていました。それがこの日の第一打席で中前にクリーンヒットを放ち出塁、先制点に貢献。大事な試合でチームを勢いづけるプレーでしたから、彼の苦しみも知っていたナインは自分の事のように喜びました。
途中出場が多かった二村颯馬君(岐阜東ボーイズ)はベンチで一番の盛り上げ役。しかし時間を見つけてはベンチ裏で素振りを続け出番に備えていました。五回、代打を告げた際は、それまでの明るさが一転し無口に。緊張が手に取るように分かりましたが、サードのボテボテのゴロに全力疾走で失策を誘うと、後続の長打でホームに生還。ベンチ戻ると再び声を枯らしナインに檄を飛ばしていました。
小倉奨真君(小山ボーイズ)も守備から試合に入ることが多かった選手。八回に3点を奪われ相手に流れが傾きかけたその裏、先頭が出塁すると小倉君の打席でバントのサインを出しました。四回にもバントを決めていて、ここでは打たせてあげたい気持ちもありましたが、嫌な流れを断ち切るため何としても追加点につなげたかったところ。練習で成功確率の低かったバントを、失敗が許されない局面できっちり決め、その後のダメ押し点につなげてくれました。走者を進めベンチに戻ってきた時の安堵の表情と激しいハイタッチをナインと交わす姿を見て、こちらも熱くなる部分がありました。
そんなプレーに奮起したのか、失点を許していた抑えの朝井優太君(小山ボーイズ)が追いすがる相手打線を振りきり勝利。10打数7安打でMVPを獲った度会隆輝君(佐倉リトルシニア)ら先発選手の活躍と、途中出場の全員が役割を理解し動いてくれた結果の優勝でした。誰一人欠くことはできませんでしたし、短期間で結束を強めて行く様は本当に頼もしいものでした。胴上げは照れくささもありましたが、素直にありがたかったです。

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大会終了後、選手にはU-15日本代表はゴールではなく通過点に過ぎないと伝えました。投げる、打つ、守るといった基本技術は同年代の周りのメンバーに比べればトップレベルであることに違いありません。ただ、一つひとつのプレーの完成度はまだまだ低い。「失敗したら負ける」という重圧がかかる局面を今後数多く経験するでしょうが、その重圧を跳ね返すことが出来る完成度の高い、深みのあるプレーをみんなには追求していって欲しいと思います。今回「日の丸」を経験した意味は正にそこ。「成長するためのヒントを得る機会だった」と捉え、今の自分に満足することなく研鑽を積んで欲しいと思います。
最後に大会開催にご協力頂いたすべての皆様、そして沢山の経験を積み視野を広げる機会を下さった皆様に感謝申し上げます。