文=藤森健
6月12日から6日間に渡り、ブルガリアの地方都市ブラゴエフグラッド(Blagoevgrad)にて、欧州野球連盟(CEB)主催のクラブチームの欧州大会、フェデレーションズカップ予選(Federations Cup Qualifier)が開催されました。
ブルガリアからの参加チームであるブラゴエフグラッド・バッファローズ(Blagoevgrad Buffaloes)は決勝まで勝ち残ったものの、惜しくもオーストリアのチームに破れ、準優勝に終わりました。その結果、ブルガリアは2019年も同じカテゴリーに残ることが決まりました。
地元開催に大会は盛況を呈した (写真提供 : Eugen Werner)
この大会については以前一度触れましたが(当連載第3回)、欧州野球連盟に所属する国がそれぞれ2チームずつの参加権を持ち、欧州のクラブチームのトップを争う大会、ヨーロピアンカップス(The European Cups)の上から4番目のレベルの大会です。ヨーロピアンカップスは毎年行われ、その年の成績が翌年に反映され、各レベル間で昇降格が実施されます。
昨年、ブルガリアの1チームは1つ上のカテゴリー、フェデレーションズカップ(Federations Cup)で最下位となったため降格し、今回は当カテゴリーへの参加となりました。ブルガリアには同カテゴリーへのもう1チームの参加権がありますが、今年は主に経済的な理由で出場を辞退しています。
ヨーロピアンカップス2018年構成と結果
2012年以来の欧州野球連盟主催大会の開催地となった今大会、参加チームはオーストリア、イギリス、ポーランド、セルビア、ルーマニア、そして、ブルガリアを合わせて6ヶ国から集まりました。
試合は各国総当たりで1試合ずつ行い、成績上位2ヶ国が決勝を戦うという方式で行われる予定でした。ただ、実際には悪天候のため2試合が中止となり、最終日までに行われた試合結果により上位2チームを決め、優勝が争われました。
決勝のブルガリアの相手はオーストリアのウィーン・ワンダラーズ(Vienna Wanderers)。国内リーグ2017年2位で、同国ナショナルチームの監督もなされている日本の方が選手兼ヘッドコーチもされている良いチームでした。
大会3日目の両チーム初対戦の際には試合は延長10回までもつれたものの、特別ルールでブルガリアが健闘むなしく惜敗。最終日の決勝でも、やはり細かいことができるか否かという実力の差が出たのか、もう少しのところで優勝を逃しました。
オーストリアチームは日本の方の活躍も目立った (写真提供:Eugen Werner)
大会全体の試合結果を見てみると、これ以上降格の可能性のない上から4番目のカテゴリー、それ故に各チームの実力差が大きく、それがスコアに現れたものとなりました。
具体的には向上心を持ち昇格を狙うチームと、参加すること自体に意義を持つチームが混在している状態で、接戦が少なく、コールドゲームが多い結果となりました。それぞれが異なる参加目的を持つことはもちろん悪いことではありませんが、参加チームの実力差が大きいことはブルガリアにとっては良くもあり悪くもあります。
なぜなら、ブルガリアはほとんど戦略・戦術を用いることなしに、ある程度勝つことができてしまいます。また、運が良ければ優勝し、上のカテゴリーに行くこともできます。ただし、昨年のようにそこでは勝てません。
国民性とブルガリア野球の特性と言っても良いでしょうが、勝つということで満足し、負ければ運がなかったとする。そして、試合や大会が終わればすべてリセットしてしまう癖があります。結果を分析し、改善しようという意識が私から見ると不足しています。このカテゴリーでは今回だけでなく、毎年同じような戦況、成績なので、もう一つ上のレベルの野球に辿り着けません。そのような状態が10年以上続いているのが今のブルガリア野球です。
また、ブルガリアチームの問題は20代前半の若い世代の選手がほぼいないことです。昨年のナショナルチームを率いて国際大会に出場した時もそうでしたが、出場選手の年齢が20代後半から30代ばかりです。あと数年はこのままでなんとか戦えるでしょうが、真剣にどのようにして若い世代を育成するか、また活躍できるような環境を作っていけるかが大きな課題となっています。
天候に恵まれず雨天中止や雨天コールドが相次いだ (写真提供:Eugen Werner)
もちろん、前向きに捉えられることもありました。欧州連盟主催の国際大会の開催国となったことはブルガリア野球にとって大きな意味があります。 この国では野球はマイナースポーツなので、活動を継続していくためには自治体、国、関係する省庁、そして地域からの理解、サポートが必要です。今回の様に国際大会が開催されることで、彼らに対して、競技や活動をアピールすることができ、今後の支援を受け易くする効果が期待できます。実際に様々なメディアで今大会が触れられるようにしたり、始球式にゲストを呼ぶなどし、今後の活動に繋がるような取り組みが行われていました。
また、今回はこれまで以上に、地元開催ということで、皆が強い意欲を持って大会に臨む様子が伺えました。特に監督は国内の有望選手を説得しチームに加えて(ルール上許されています)事前練習も行うなど、昨年のナショナルチーム以上の準備をして士気の高さを見せていました。
バッファローズはブルガリア野球連盟会長が監督を務め、ブルガリア国内リーグでこれまで22回の優勝回数を誇る強豪チームです。また、かつて、日本人がこのチーム専属のコーチをしていた時期もあり、ある意味でブルガリア野球の中心です。彼らが今回のような情熱を持ち、活発な活動を続けていくことはブルガリア野球の将来に期待が持てます。この勢いを失わず、今後も国内野球を牽引して行ってもらいたいものです。
- 【第12回】2020年8月7日 「2020年シーズン開幕」
- 【第11回】2019年9月17日 「2つの国際大会」
- 【第10回】2019年6月28日 「日本からの支援」
- 【第9回】2019年4月17日 「子どもへの取り組み(後編)」
- 【第8回】2019年2月4日 「子どもへの取り組み(前編)」
- 【第7回】2018年12月18日 「2018年シーズン終了」
- 【第6回】2018年10月12日 「Baseball5 バルカンオープン」
- 【第5回】2018年7月25日 「フェデレーションズカップ予選」
- 【第4回】2018年5月21日 「ブルガリア野球と日本のつながり」
- 【第3回】2018年4月9日 「ブルガリア野球の概要(後編)」
- 【第2回】2018年3月15日 「ブルガリア野球の概要(前編)」
- 【第1回】2018年2月19日 「ブルガリア基本情報」
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