あの放物線――。現地ドジャースタジアム、そして日本からテレビで見守る野球ファンも含めて、だれもが夢を乗せた打球になると確信していたに違いない。
昨年3月、アメリカとの第4回WBC準決勝。1点を追う8回裏二死一、二塁で四番・筒香を迎えた。カウント1ボール2ストライクから4球目、113㌔のチェンジアップを振り抜く。良い角度で上がったかと思ったが、フェンス手前で打球は失速し、右翼手のグラブに収まった。9回裏は三者凡退に終わり、事実上、8回の攻撃が侍ジャパンの命運を分けた。
「打てなかったのは自分の技術不足。負けてしまったけど、良い勝負はできた。大会を通じて成長したと実感している」
筒香は悔しさを押し殺すように話した。2016年のレギュラーシーズンで44本塁打、110打点のタイトル2冠のキャリアを引っ提げ、初めてWBCに出場した。最後に屈辱を味わった侍ジャパンの主砲だが、大会を通し打率.320、3本塁打、8打点。日本の〝顔〟として残した輝かしい実績が色褪せることはない。
筒香は横浜高3年時(2009年)に第8回アジアAAA選手権で日の丸のユニフォームを着ているが、当時の代表メンバーは夏の甲子園に出場しない関東選抜チームだった。プロ入り後、2014年の日米野球に出場。中村晃(ソフトバンク)が辞退したことによる追加招集だったが、先発2試合では計2安打、代打出場の第5戦でも安打を放っている。
2015年は3月の欧州代表との強化試合、11月のプレミア12では主砲の座を獲得。26打数10安打、5打点、打率.385。プエルトリコとの準々決勝から、韓国との準決勝、そしてメキシコとの3位決定戦の3試合では四番を任されている。
2016年の2度(3月、11月)の強化試合を経て、17年の第4回WBCでは不動の四番に君臨。キューバとの一次ラウンド初戦に2ランを放つ華々しい発進を遂げると、オーストラリアとの第2戦でも見せ場を作る。同点の7回に五番・中田が勝ち越しソロを放つと、8回には筒香が試合を決定づける右越えの2ラン。試合後、主砲2人によるヒーローインタビューではハグを披露し、東京ドームの観衆を大いに沸かせた。
イスラエルとの二次ラウンドでも双方無得点の6回に先制ソロを豪快に放ち、一次ラウンドを通じ6戦全勝でアメリカ切符(決勝ラウンド進出)を手にした。
このWBC、7試合で侍ジャパン唯一の黒星がアメリカとの準決勝だった。大一番での無念は忘れていない。筒香には口癖がある。「少しでも子どもたちが野球に興味を持ってくれたら」。筒香は普段、決して多くを語らないが、野球人口減少への危機感を募らせるなど、意識を高く持ち、今後もバットで結果を出し続ける。