文・写真=色川冬馬
予想していたことが起きた。未だに、40度を超える灼熱の太陽が選手の集中力と体力を奪っていくパキスタン・ラホール。合宿も終盤を迎え、選手の疲れがピークに達するこの時期。経験したことのないタフな合宿に音をあげる者、怪我をする者、選手の行き場のない不安・不満が溜まる時期である。こんな時の標的は、外国人監督だ。
パキスタンでは、年齢と役職がモノを言う縦社会。皆、調子が良ければ若い監督をリスペクトするが、都合が悪くなると、私より年齢の上の者、または私と同等の立場の人間をうまく利用し、文句を言いはじめる。始まって数週間の関係に、表向きのリスペクトはあっても、真のリスペクトなどないのだ。未だに、選手がミスをすると「なぜ」ミスをしたかを考えさせる前に、手が出るパキスタンの指導では、選手は普段、指導者をリスペクトしていない選手が多い。グランド内と、彼らの管理の元にある時だけ従っている「フリ」をしている場合が多いのだ。
その疲労困憊の選手の言い分はこうなる。「監督は、外国人だからパキスタン人を理解していない」「日本人は真面目すぎる。少し休ませてくれ」なんとも代表選手のメンタリティだとは信じがたいが、これが現実である。実は、イランでも全く同じ経験をしている。こんな時は、何も言わず予定通りに練習を進めるに限る。これに反応、または相手してしまってはキリがない。外国語を使う私の言語能力で、現地語が大半を占める集団の話に入り込む隙はない。中途半端に言及すると、皆、話を都合の良いように解釈する。その噂が噂を呼び、私自身が墓穴を掘る結果となり、チーム内にブレが生ずる。
彼らはその場をしのぐ為なら平気で嘘もつく。さらに、彼らは立場が上の会長の名前を引き合いに出して、午後の練習を中止にするように私を脅してくる。実に恥ずかしいエピソードだが、これが現実である。その日の練習後、帰ってメールを開くと会長から全く違う案件の連絡があり、引き合いに出した割には雰囲気が良すぎる。ということで、彼らは引き合いに出しただけで、会長へ何も伝えていないのが現実。ここで、私が変に今日の話を会長に持ちかけると、さらに混乱するという構造なのだ。
毎度のことながらやはり「ピンチはチャンス」である。この機会を生かさずにして、真のパキスタン野球の成長には繋がらない。今回私の周り起きたことも、一時な疲労からくる感情の行き違いであり、野球の神様がくれた絆を強く結ぶきっかけなのだ。この次の練習にて、すかさず全員集め、選手へ語りかけた。なぜ私がパキスタンに来たのか。私がどれだけパキスタンの野球に魅力感じ、惚れ込んでいるか。君達と戦っているのではなく、君達を次のレベルへ導きたいのだと。
私が信じているのは一つ。会長から言われた「現場は、全てお前に任せた。誰がなんと言おうと、現場はお前が言うことが絶対だ」独裁者的にも聞こえるかもしれないが、これが会長と私の信頼関係である。私がどんなに現場で孤立しても、これが耐えきれる唯一の理由である。
- アジア選手権「パキスタン野球代表監督になるまで」
- アジア選手権「パキスタン野球のルーツを探る~クリケット代表合宿視察~」
- アジア選手権「外国人監督の苦悩~孤独との戦い~」
- アジア選手権「発展途上国の宿命」
- アジア選手権「野球は9回。。。。」
- アジア選手権「パキスタン野球の可能性」
- アジア選手権「パキスタン代表 中国戦の明暗」
- アジア選手権「パキスタン代表 WBCに向けて」
- 「西アジアの野球情勢」
- 「プリジデンシャルカップ」
著者プロフィール
- 色川冬馬(いろかわ とうま)
- 2015年2月にイスラマバード(パキスタン)で行われた西アジア野球選手権にイラン野球代表監督として、チームを2位へと導く。同大会後、パキスタン代表監督に就任。2015年9月に台湾で行われた「第27回 BFA アジア選手権」では、監督としてパキスタン代表を率いた。
- 世界の野球 可能性を秘めたコロンビア野球
- 世界の野球 力戦奮闘ブラジル野球!~日系移民が紡いできた夢~
- 世界の野球 東欧ブルガリア -野球事情とその展望-
- 世界の野球 ヒマラヤを北に臨む国 ネパールの野球
- 世界の野球 清水直行 ニュージーランド野球の世界挑戦記
- 世界の野球 アジア選手権 日本人監督の挑戦 インドネシア編
- 世界の野球 アジア選手権 日本人監督の挑戦 パキスタン編
- 世界の野球 アジア選手権 日本人監督の挑戦 番外編 タイ野球の歩み
- 世界の野球 日本人指導者の挑戦 香港野球編
- 世界の野球 フランス通信~フランス野球・ソフトボール連盟より~
- 世界の野球 南の楽園フィジーのHAPPYベースボール通信
- 世界の野球 "アフリカからの挑戦・赤土の青春" ウガンダベースボール
- 世界の野球 パラオ共和国 よみがえれ南洋の「ヤキュウ」魂
- 世界の野球 アフリカ球児の熱い青春!タンザニア野球“KOSHIEN”への道"
- 世界の野球 受け継がれるSri Lanka野球の物語~光り輝くスリランカ野球の夢~
- 世界の野球 セルビア野球の挑戦と葛藤 バルカン・ベースボール事情あれこれ
- 世界の野球 ケニア野球、一歩一歩 元独立リーガー日本人青年監督の奮闘!
- 世界の野球 欧州の野球事情
新着記事
ジャパン 関連記事
世界の野球 関連記事
"世界の野球"ヒマラヤを北に望む国 ネパールの野球「ネパール野球25周年日本ネパールスポーツ交流プログラム2024-2025」2024年9月2日 |
"世界の野球"ヒマラヤを北に望む国 ネパールの野球「学校スポーツ連盟との協定」2024年4月12日 |
"世界の野球"ヒマラヤを北に望む国 ネパールの野球「1st National Baseball5 Championship 2024」2024年1月15日 |
"世界の野球"ヒマラヤを北に望む国 ネパールの野球「目指せ!体験から広がる笑顔の輪」2023年11月28日 |
"世界の野球"ヒマラヤを北に望む国 ネパールの野球 「福島県×ネパール シャクナゲ交流」2023年10月2日 |