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"世界の野球"アジア選手権・日本人監督の挑戦「パキスタン代表 中国戦の明暗」

2015年9月30日

文・写真=色川冬馬

 試合終了後、行き場のない気持ちに言葉が詰まった。会長はじめ、皆が私の顔を覗き込む。この試合に負けた事が、悔しくて、悔し過ぎて、涙がでた。自分自身の事も、この結果も受け入れられなかった。
 この中国戦は、パキスタン野球連盟会長シャー氏の23年間分の想いが詰まった戦いだった。23年に渡るパキスタン野球の歩みを、25歳の私に託してくれたのだ。また、パキスタン野球だけでなく、アジア野球後進国の長年の夢であるアジア野球4強の一角を打ち破る可能性も秘めていた。シャー氏がある日の食事会後、車へ向かう道中で私に言った言葉がある。「おれの夢への道は、とーま(筆者)の手の中だよ」私は、こんな想いを背負える事に感謝しつつ、何としてでも「勝つ」事で恩返しをしたかった。

 夢は、叶えたいと想うだけでは叶わない。1歩ずつ、必要なスキルと知識、そして人間関係の構築を日々積み上げていかなければいけない。しかし、国際大会での勝利は、その1歩を超えて5歩、10歩先へ踏み出せる可能性がある。1歩ずつだけでは、生きている間に完遂出来ない夢もある。中国戦の位置付けは、そんなパキスタン野球において「夢への加速度をあげる」重要な戦いだった。夢に向かうスピード感、それを加速のさせるべきタイミングと方法を知っているか否かが、プロとアマの違いだと私は思う。その加速的に夢へ近づこうとするタイミングで、個人とチームの成長バランスが、必ずしも一定である必要はない。選手の実力以上の力は、試合だから、チームだからだせる。勝つ事で、選手の実力を押し上げ、パキスタン国内外に旋風を巻き起こしたいと考えていた。

 何とも悔しいが、現実はそう甘くはなかった。改めて、積み上げ直さなければいけない事が山ほどある。私自身の想定の甘さを反省し、出直したい。「君たちは1歩ずつ前へ進む時だよ」という野球の神様からのメッセージだったのかもしれない。もし、もう一度挑戦させてもらえるのであれば、こんな悔しい思いは2度と出来ない。この場を借りて、挑戦をさせていただいたパキスタン野球関係者、支えてくれた仲間、そして応援してくださった皆様に感謝申し上げたい。本当にありがとうございました。

日本人監督の挑戦
著者プロフィール
色川冬馬(いろかわ とうま)
2015年2月にイスラマバード(パキスタン)で行われた西アジア野球選手権にイラン野球代表監督として、チームを2位へと導く。同大会後、パキスタン代表監督に就任。2015年9月に台湾で行われた「第27回 BFA アジア選手権」では、監督としてパキスタン代表を率いた。

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