文・写真=白川将寛(青年海外協力隊/フィジー野球ナショナルコーチ)
前回に続き、今回も小学校巡回野球教室プログラム編をお届けしたいと思います。
子どもたちが野球のルール・基本技術を徐々に覚えるようになった頃から、毎週土曜日に開催している誰でも参加できる野球クリニックに来る子が増えてきました。野球に興味を持ってくれた子が増えてきて嬉しい限りです。
その土曜日の野球に毎週参加しているU15代表チーム候補のジェイコップくん(14歳)は気難しいやんちゃな子なのですが、プログラムを始めて2カ月ほど経ったある日、彼の学校で野球教室を通常通り行い、サナイラ選手と私が野球道具を片付けようとしていたところ、彼が友達と一緒に私の所に来て言いました。
「マサ。ベースとかボールとか汚れたよね。洗って来ていい?」
・・・こんなこと言われたのは初めてでした。
道具は、野球協会の事務所に持って帰ってきて私たちが洗ったり磨いたりしていました。しかも彼は土曜の練習のあと片づけを手伝わず、すぐ家に帰るような子なので、言われた時とても嬉しかったですが、最初は「何をたくらんでいるんだ?」とさえ思ってしまいました。(笑)
「え・・・、おおお!ジェイコップ!ありがとう!お願いします。やるからには超綺麗にして!」
とお願いすると、彼は汚れたベースとボールを持って友達とともに水道へ走って行きました。
(水遊びしたいだけなんじゃないか?よし、様子を見にいこう)
水道に行くと彼は友達と、ベースやボールの汚れを落とし、ブラシが無いので手でゴシゴシと磨いていました。しかも、「これくらいでいいの?」とボールを洗う友達が彼に尋ねると、彼は、「ダメやろ。白くないやん!」と、綺麗になるまで磨いていました。
綺麗になった軟式ボールや青のゴムボールを見て満足そうなジェイコップくん。 全てのボールを綺麗にし、私のもとに返してきました。「ありがとう!!」と伝えると、何も答えずニタ~と笑う彼の姿はとても可愛いかった。
野球教室中に伝えていた“道具にリスペクトを”。土曜の練習中にも私からうんざりするほど聞かされたこの言葉。少しずつではあるけれど、彼なりに理解してきたのかなと思い、嬉しく感じました。
コーチとして彼らに想うことは、いくつもの道具によって試合が成りたつ野球。道具によって私たちは野球を楽しめている、だからこそ道具に敬意を払い、感謝したくなるくらい道具に愛情を込めてほしい。愛情を込められた道具がいつか必ずあなたのプレーを助けてくれる瞬間が来る。ということ。
ボールやグローブはしゃべることはできない。いくら綺麗にしてもお礼なんてされない。だけど、生き物以外の物質に敬意を払い愛情を込めることで、その物質はいつの日か目には見えない何か素敵なものを私たち生き物に与えてくれるような気がします。
この出来事の1ヶ月後と半年後に開催された巡回先の5校による小学生野球大会。そこで、ジェイコップ君の所属するチームが2季連続優勝したことからも、道具をリスペクトしているからこそだと思いましたし、野球の神様は心や行動が成長する彼らに対し優しく微笑むんだなと思いました。
この小学校巡回野球教室プログラムによって約50名の子どもが本格的に野球に興味を持ち、土曜日の野球クリニックに参加してくれるようになりました。 5年、10年先の未来を見据えながらも、今私に出来ることは、目の前の子どもたちと野球を思いっきり楽しむこと。そして、彼らの自由な意思をリスペクトしながら、新たな「リスペクト」の価値を彼らと共有していきたい。南の楽園の子どもたちがさらにHAPPYを感じるきっかけとして野球が存在していけたら嬉しいなと思います。
- 【第7回】2019年12月11日 「次の世代へ繋ぐバトン」
- 【第6回】2019年7月31日 「U12W杯~オープニングラウンドを終えて~」
- 【第5回】2019年7月25日 「U12フィジー野球代表 世界大会へ出発」
- 【第4回】2019年6月27日 「遂に開始 クラウドファンディング」
- 【第3回】2019年3月25日 「Fiji野球 世界へ挑戦!?」
- 【第2回】2019年1月28日 「ナショナルチームの活動」
- 【第1回】2018年12月7日 「フィジー野球の現状」
- 【第8回】2017年1月23日 「フィジー野球の2年間を振り返って(後編)」
- 【第7回】2016年11月28日 「フィジー野球の2年間を振り返って(前編)」
- 【第6回】2016年9月6日 「第25回世界少年野球大会千葉大会~当日編~」
- 【第5回】2016年8月8日 「第25回世界少年野球大会千葉大会~準備編~」
- 【第4回】2016年7月22日 「コミュニティ地区での野球」
- 【第3回】2016年6月23日 「フィジーに恩返し」
- 【第2回】2016年5月25日 「道具にリスペクトを」
- 【第1回】2016年5月15日 「キャッチボール」
著者プロフィール
大嶋賢人
1994年8月8日生
都内の教育大学を卒業後2017年8月よりFiji Baseball & Softball Associationに青年海外協力隊の野球隊員として配属。ナショナルチームの指導や巡回型普及活動を行っている。「年間300日雨が降る」と言われる首都スバ市で”NO SWING-NO HIT!”をモットーに現地の子どもと白球を追っている。好きな言葉は「出来なくて当たり前、出来たら男前」。
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