文=長谷一宏(JICA青年海外協力隊・ウガンダ野球ナショナルコーチ)
日本に滞在をしたカトーとオメリのお話しはいかがでしたか。レベルの高い日本の野球に触れたことで選手達の間で「日本でプレーをしたい」という言葉が以前よりも少し重みを持つようになったのではないでしょうか。
さて二人の滞在記を間に挟みましたが、今回は私の活動のお話しです。野球の「強化」と「普及」については既にお話ししました。今回は最後の1つ「マネジメント」についてです。
「システムを変えなくてはいけない、システムを作らなくてはいけない」
そう危機感を抱いたのはウガンダに来て半年が過ぎた頃でした。ウガンダ野球協会のスタッフ達、各チームの監督達は皆、生活費を得るための別の仕事を持っています。つまり、野球の活動は無給で自らのプライベートの時間の中で行っています。休日や仕事帰りなど自分の時間を割いて野球の発展に力を注ぐ彼らの姿を見て当初は感動していました。
しかし半年を過ぎるとウガンダ野球におけるいろいろな問題が気になり始めてきました。会議では皆「俺はこういうことを一生懸命やっている」「野球が好きだから時間を削って頑張っている」というように各々が自分の努力をアピールしていました。しかし問題は一向に解決されません。嘘をついているのかと思い、別の日に個々人を尋ねてみると、確かに皆、自分の時間を削って頑張っていたのです。つまり、「各々の頑張りがそれに見合った効果を生み出していない」という事実に気が付きました。
そこでマネジメントやシステムに欠陥があるのではないかという思いを持ちました。ここを改善しない限りいくら個々人が草の根レベルで努力をしても問題は解決されません。個人の努力が全体問題の解決に向かわないことが私にとっては大きな恐怖でした。
例えば、私自身が2年間野球の技術指導を熱心に行い、「俺は頑張った」と自己評価をして終わったとします。しかし、ウガンダ野球の抱える問題の解決という点では2年前と比較して進展がなかった場合、それは単なる自己満足になってしまうことになります。そうして、野球の技術指導や普及活動のみを行うのではなく、マネジメント改善として既存の体系の見直しやシステム作り、新たな企画の創出等を行っていく覚悟を決めました。
国内リーグづくり
皆さんに最もわかりやすいのは国内のリーグ戦の設置です。ウガンダでは定期的な公式戦が存在していませんでした。練習試合や大会は不定期に開催告知がされ、またその告知も急であるため、選手は試合を目標に日々の練習を行うことができない状態でした。また、試合後も次の試合がいつ行われるのかがわからないため貴重な試合機会にも関わらず、その試合後に反省をし、次の試合に活かすというようなこともなされていませんでした。
コーチは自らの余暇の時間を削って毎日練習に参加し、熱心に指導しても選手がついてこなかったり、学校で普及活動をしても野球を続ける子供が増えなかったりという現状がありました。「俺は一生懸命やっているのに選手がついてこない。野球協会の一員として野球の紹介を今月は3校にやったけどみんな続かない」と嘆きます。このコーチが頑張っていることは誰の目にも明らかです。選手達がついてこないのを「野球がつまらないから」と切り捨てることは簡単ですが「大会がない」「定期的な試合の機会がない」というシステムの問題とも考えられます。
そこで7チームで年間を通じて試合を行うリーグ戦を作りました。これにより、選手は試合での勝利を目標にコーチの掲げる厳しい練習にもついていくようになりました。また野球を紹介し、新たに野球を始めた子供達もリーグ戦でプレーをする年上の選手に憧れを持ったり、普及校同士の交流試合に勝利することを目標にしたりと野球に夢中になる子供達が増えました。 システムを作ることにより問題解決を図ったわかりやすい例がリーグ戦です。
野球協会との連携
野球協会の体質の見直しや、計画の策定には野球協会会長のカソジの協力の下、二人三脚で進めてきました。長期の計画書を作成し、技術指導と普及活動をどのように行っていくのかを検討するところからスタートしました。
普及活動においてはやみくもに活動を行うのではなく、過去の事例を振り返り、野球が根付くには
・広いグラウンドがあり
・コーチ役となるリーダーがいて
・スポーツに好意的な小、中学校
という3つの条件を満たしていることがベストであると導き、限りある野球用具を効果的に分配する方法を検討していきました。
新たなシステム(企画)を作ることで課題を解決しようとする際は一見突飛なことでも検討していこうという姿勢を忘れないようにしました。それはウガンダ野球が日本野球やアメリカ野球と同じような発展の道を辿る必要はなく、独自のものを作り上げてもいいという視点からです
例えば野球の技能検定を作ろうとしたことがありました。選手の技術レベルに応じ級や段を認定する制度です。選手はそれぞれの級に応じた色のワッペンを肩につけてプレーをすることで観客も誰がどの程度上手いかというのが一目でわかり、「2段のピッチャーから5級のバッターがヒットを打ったら盛り上がれるかも」などファンが楽しめるようになるのではと考えました。また定期的に行う昇級試験は選手のモチベーションにもなりますし、参加費をとることで野球協会の貴重な収入源にもなります。
また、収入源の確保という点においては日本のように野球場を歌のライブ会場としてレンタルするのはどうかという案もでました。これは段取りやコスト、集客力など不明な点も多く、まず私自身がバンドを組んで実際にライブをやってみる、ということで検討したりもしました。
グラブ作りにも着手 |
グラブ作りにも着手 |
海外野球支援
「システム作り」という点においてはウガンダ野球のみならず海外野球支援という点においても必要性を感じています。現在、小規模ながらアメリカやカナダなどによる野球支援が各国で行われています。
支援方法は様々ですが現地にいる身としては疑問に感じることがあるのも正直な気持ちです。「野球途上国」において野球場や交通費そして野球用具などは野球の発展において共通の課題であると思います。しかし、課題が共通なのにも関わらず、支援者間で解決へのアプローチ法を議論、検討、共有する機会が少なく、それ故に同じ問題が繰り返し生じることを懸念しています。
12月10日にウガンダで「アフリカ野球会議」が行われました。これはアメリカのメジャーリーグ機構が主催をし、アフリカ10か国から野球関係者を招待し、今後の各国の野球の発展に関してアメリカ側と議論をするという初めての機会でした。
会議ではアフリカ各国がそれぞれ自ら描く今後のビジョン「5か年プラン」を発表しました。アメリカ側はその発表を受け、メジャーリーグ機構として今後どのようにアフリカ野球の発展に関わっていくのかを議論したようです。
私は各国の関係者が自国の野球発展ついてどのようなビジョンを持っており、何を課題と考えているかに興味があり会議を非常に楽しみにしていました。しかし、この記事を書いている今、私は会議の退席を命じられています。「アメリカが介入しようとする試みをそれまでアフリカ各国で野球の支援をしてきた日本人がよく思う訳がない」というアメリカ側の意向によるようです。
私はウガンダ野球協会の人間としてウガンダ野球の発展を第一に考え、アメリカによりよい支援を行って欲しいと思っています。それ故に支援者側として情報は惜しみなく提供し、効果的な支援方法を探りたいと考えていたので非常に残念な思いをしました。
海外野球の支援の現場で起きている問題が共通しているのであればそれを各国間、支援者間で共有することで同じ過ちを繰り返すことを防げるかもしれません。同様に成功事例があればそれを検討し効果的な海外野球支援システムのようなものを構築できるかもしれません。そのような理由から支援者間での議論の必要性を感じています。
技術指導や普及活動ばかりが目立ち、このように様々なことを見直し、計画し、実行し、検討するといったことは非常に見えにくく理解されにくい活動です。しかし、野球の発展のためには大切な一部だと考えています。掲載したのはごく一部であり会長のカソジとは本当に数多くのテーマについて話をしました。
もしあなたがウガンダ野球に携わるとしたら、どのようなシステム作りを目指すでしょうか。日本に帰国後ぜひそのアイデアをお聞かせください!
(写真提供=八木駿祐)
- 【第10回】2017年5月26日 「ウガンダからのメッセージ」
- 【第9回】2017年2月22日 「ウガンダ野球の未来vol.1 日本からのサポートをどう行うか」
- 【第8回】2017年1月26日 「私の背景」
- 【第7回】2017年1月17日 「ウガンダ野球の歴史」
- 【第6回】2016年12月27日 「マネジメント システム作り」
- 【第5回】2016年12月1日 「ウガンダ人選手が見た日本 vol.2」
- 【第4回】2016年11月4日 「ウガンダ人選手が見た日本」
- 【第3回】2016年9月29日 「強化活動について~いつかは大敗を~」
- 【第2回】2016年9月8日 「野球の普及と強制」
- 【第1回】2016年8月3日 「ウガンダ野球の今」
著者プロフィール
- 長谷 一宏
- 1987年10月6日生
2014年10月より青年海外協力隊員としてウガンダ野球協会へ、選手の指導及び指導者育成のためナショナルコーチとして派遣されている。「ウガンダ野球の自立的・持続的な発展」を目標とし、各チームへの技術指導に加え、リーグ戦の運営、学校への普及などを行っている。
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