文・写真=長谷一宏(JICA青年海外協力隊・ウガンダ野球ナショナルコーチ)
こんにちは。ウガンダ野球の過去の話はいかがでしたでしょうか。このコラムも残すところあとわずかです。最後はウガンダ野球の未来についてのお話しをしたいのですが、その前に私個人のお話しをさせてください。自分語りは好きではありませんが私自身が先輩方の体験談に勇気づけられたので必要性を感じています。
私が海外の野球に初めて関心を持ったのは小学3年生の時でした。親善試合として、ハワイ州の選抜チームと地域の選抜チームとの交流試合が国内で行われました。地域の選抜チームは4年生以上の高学年で構成されていたので私自身は出場できなかったものの、兄や所属チームの先輩が出場していることもあり観戦をしに行きました。 結果は日本チームの大敗でした。ハワイのチームは投げる球のスピード、打球の飛距離など全ての面において日本を圧倒していました。当時の私にとってヒーローであった地域の選抜チームが大敗したことは衝撃的で、海の向こうにはまったく別の野球があることに強く惹かれたことをよく覚えています。
後に私自身も地域の選抜チームの一員として韓国に試合をしに行く機会がありました。私にとっては初めての海外であり、ホームステイも経験しました。韓国にもまた日本やハワイとは異なる別の野球観が存在するように感じられ、とても印象的でした。また、驚きだけではなく韓国語がまったくわからない中で、野球という1つの競技をきっかけに海外の人とコミュニケーションがとれることに喜びも感じました。銭湯のようなところに行った際、韓国のチームの選手と偶然会い、試合でのよかったプレーを褒められたり、投げ方や打ち方について身振り手振りでいろいろ話しあったことはいい思い出です。
海外の野球に興味を持ったもう1つのきっかけはサッカーのワールドカップです。私が野球少年として野球に夢中になっていた頃は、サッカーのワールドカップが盛り上がっていました。1998年に日本が初めてワールドカップの出場権を勝ち取り、2002年にはそのワールドカップが日本で開催され日本はベスト16に残りました。こうして日本国内でサッカーが盛り上がりを見せる一方で、上述のように海外の野球に関心を持っていた私は「サッカーのワールドカップはとてもおもしろい。でもなぜ野球のワールドカップはないのだろう」という疑問を持っていました。
当時はインターネット環境がどんどん整備され、知りたいことはすぐにネットを通じ自分で調べられるようになってきていました。そこで野球のワールドカップについて調べてみるとIBAF(国際野球連盟)によって開催はされているものの、サッカーのように一流のプロ選手同士が出場するものではないこと、アフリカやヨーロッパなどでは野球がマイナー競技であるため、サッカーのワールドカップのような盛り上がりは期待できないことなどを知りました。そうして、将来はアフリカやヨーロッパの野球を見てみたい、盛り上げたいという思いが芽生えました。
少年時代の思いは頭の片隅にはあったものの本格的になっていく自身の野球に熱中するうちに忘れていきました。しかし、ふとした際に海外野球への関心は頭をよぎりました。
例えば、「強いゴロを打とう!」という指示が、チームとして与えられた際、自らは強いゴロを打ったのにも関わらずアウトになり悔しい思いをしている中、次打者がホームランを打ってチームが盛り上がっているのを見て、「なぜ、指示を忠実に守った自分が何も言われず、指示と違うことやった選手が褒められるのだろう」と疑問を持ち、「海外の野球の現場でもこういうことが起こっているのだろうか」などとよく思ったものです。
しかしながら、私自身が選手として素晴らしい能力があったわけではなく、輝かしい実績を残せなかったこと、高校生の時に大きなケガをしてしまい思うように身体を動かせなくなってしまったことなどにより「アフリカやヨーロッパの野球を発展させたいけれど、それは自分の役割ではないのだ。自分じゃなくても他の誰かがやってくれるだろう」と海外の野球に携わるということを諦めるようになりました。
再び海外野球への熱を灯すきっかけになった転機は2つあります。
1つはWBC(ワールドベースボールクラシック)の影響です。WBCはプロ選手同士が野球の世界一を懸けて戦う最初の大会でした。小学生の頃に抱いた「サッカーのワールドカップのような野球のワールドカップが見たい」という思いは2006年より始まったWBCにより叶えられました。
しかし、「プロの選手達が世界一を懸けて戦う」という点においては興奮を覚えたものの、アフリカやヨーロッパの大半の国ではやはり野球がまだまだ発展途上であり、将来はこれら国々の野球がレベルアップをすることで、もっと野球界がおもしろくなり、盛り上げることができるだろうとも感じました。実力のある国との力の差はあるものの、回を重ねるごとに強くなっている中国代表にも感化されこのような国際大会をきっかけに今は実力が十分ではない国々も力をつけ50年後にはもっとおもしろくなるかもしれないと感じました。
海外野球への熱を灯すことになったもう1つのきっかけは大学の先生の言葉です。上述のようにWBCなどの国際大会を契機に海外野球への興味が再熱しましたが、「それに携わるのは自分ではないのだ」というように諦めていました。
そんな際に 「どうせ諦めるなら、諦められるところまでしっかりやりきって諦めなさい。そうしないとあなたは今後の人生において一生『あのとき本気でやっていれば俺はできたかもしれないな』と後悔するでしょう。もしかしたら友人や子供にも『俺はあの時もうちょっと頑張ればできるところまではいったんだよ』と何も成していないのにちょっとやればできたように、そこまでのレベルまでにはいたということを自慢気に語るかもしれない。それが一番かっこ悪い。」大学の先生からそう言われたことがきっかけで、諦められるところまで本気でやってみよう。と思うようになりました。
そこからはまず、自分がこれまで疑問に思っていたことを関係者の方々に尋ねるところから始めました。「バットのヘッドが立つというのはどういうことか」「なぜ走り込みが重要なのか」「肘が下がるのを修正するためにはどのような指導法があるのか」という具体的なことから「強いチームとは?」「よい指導者とは?」という抽象的なことまで50を超える様々なチームで選手や、指導者の方に意見をききました。驚いたのはこれまで当たり前のように指導の現場で使用されていた言葉(ヘッドを立てろ、右手で押し込めのような)は人によってかなり解釈が異なっていたことでした。こうした表現が日本各地で共有されていることに野球の歴史の長さや伝統を感じることができた一方、それを壊し、新しい価値観を作ることのできる可能性も感じ、強く惹かれました。
このように野球について勉強をする一方で、指導者の方からの「君はもっともっと選手としてもうまくなるよ!自分が上手くなることもまた良い指導への道」という言葉に励まされ、自らの技術を向上させようとする努力もしました。野球指導者として青年海外協力隊に参加するためには実技試験もあったので結果的にこうした取り組みは功を奏しました。
「夢を諦めるために本気でやろう」そこから始まったこうした取り組みは、諦めるどころかやればやるほど野球の持つ問題点と可能性にどんどん惹かれ、夢中になっていきました。そうしてウガンダ野球協会の要請の下、青年海外協力隊の野球指導員として派遣されるまでに至りました。
今、ウガンダの野球に携われていることは何より幸せです。また、自分が幸せを感じるだけで終わらないようしっかりとこの国の野球の発展のためにできることをやっていきたいと思って活動しています。まだまだ競技のレベルは低いですが、日本やアメリカとも異なる全く別の野球がここにはあり、こうした野球がいつか日本の野球とぶつかる日を楽しみにしています。
さて、長くなりましたが、お付き合いいただきありがとうございました。大したキャリアもない自分のことを書くのは恥ずかしく、あまり好きではありません。しかし、私自身が海外野球に興味を持った小学生の頃、そして夢を再燃させた大学生の頃、テレビやインターネットで見た海外の野球に携わっていた方々の姿に影響されここまで来ることができました。
私の記事がきっかけとなり、海外の野球に興味を持ってくださる方が少しでも増えることを楽しみにしています。さて、次回は「ウガンダ野球の未来について」です。
私自身がウガンダで過ごした2年4か月、その先に見たウガンダ野球の未来の姿、今後やっていきたいことなどを書こうと思います。お楽しみに!
(写真協力 山崎晃平)
- 【第10回】2017年5月26日 「ウガンダからのメッセージ」
- 【第9回】2017年2月22日 「ウガンダ野球の未来vol.1 日本からのサポートをどう行うか」
- 【第8回】2017年1月26日 「私の背景」
- 【第7回】2017年1月17日 「ウガンダ野球の歴史」
- 【第6回】2016年12月27日 「マネジメント システム作り」
- 【第5回】2016年12月1日 「ウガンダ人選手が見た日本 vol.2」
- 【第4回】2016年11月4日 「ウガンダ人選手が見た日本」
- 【第3回】2016年9月29日 「強化活動について~いつかは大敗を~」
- 【第2回】2016年9月8日 「野球の普及と強制」
- 【第1回】2016年8月3日 「ウガンダ野球の今」
著者プロフィール
- 長谷 一宏
- 1987年10月6日生
2014年10月より青年海外協力隊員としてウガンダ野球協会へ、選手の指導及び指導者育成のためナショナルコーチとして派遣されている。「ウガンダ野球の自立的・持続的な発展」を目標とし、各チームへの技術指導に加え、リーグ戦の運営、学校への普及などを行っている。
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