日本の3大会ぶり3回目の優勝で幕を閉じた「2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™」。2009年の第2回大会以来14年ぶりの世界一奪還は、今後の野球界にとっても意義の大きいものとなった。
次世代へ繋ぐ使命
2021年12月2日、栗山英樹監督の新監督就任記者会見が行われた。
「これからの日本野球のために結束して、2023年のWBCで優勝できるように全力を尽くしていきます」
並々ならぬ決意で就任を受諾したことは、その言葉と表情からも窺い知れた。
その年の年末に「次世代へ野球を繋ぐ責任」について問うと、星野仙一さんからの「なんで今、俺たちは野球ができているのか考えろ。野球界に恩返ししろ」という激励や、関根潤三さんからの「我々は“野球屋さん”と呼ばれた時代があった。野球選手がプロとして認められない時代があったことを絶対に忘れちゃいけない」という語りかけが、栗山監督の脳内で響いた。だからこそ熱を込めた。
「先輩たちが作ってくれた野球なんです。僕らの頃にはもう野球に夢があったわけですから、その夢を次の世代に繋げていくことが我々の責任なんです」
今の野球界を「過渡期」とも表現した。1つの意味として、NPB12球団を見渡すと世代交代が進んでいるということ。現に多くの若手選手を積極的に招集し、今回の代表選手の平均年齢「27.3歳」は過去4回のWBCと比べて、最も若い陣容だった。
もう1つの意味は、少子化、競技人口の減少、スポーツおよび娯楽の多様化などにより野球を取り巻く環境は近年大きく変わったことだ。その中で「勝たないと伝わらないこともある」と、野球の魅力をWBC での勝利によって強く発信しなければいけない使命感に駆られていた。
そのため、ともに戦う選手たちの選考は熟慮を重ね、悩み抜いた。あらゆることを想定し30名を選出。MLBの選手とも積極的にコミュニケーションを図った結果、MLBからは大谷翔平(エンゼルス)、ダルビッシュ有(パドレス)、吉田正尚(レッドソックス)、鈴木誠也(カブス※大会直前に負傷離脱)の招集に成功した。
また、アメリカ国籍ながら母親が日本人でWBCの出場資格を満たすラーズ・ヌートバー(カージナルス)も招集。賛否はあったが、能力に加え「一生懸命で性格も良い。初めて侍ジャパンに入る日系人として最高の選手」と信頼を置いた。社会的意義についても「子どもの頃から自然に違う国の人が隣にいるとなればどうなるか。いまだに戦争が起こる世の中に対して、スポーツがやらなければいけないことがあります」と力強く語った。
熱狂がもたらすもの
2月17日の「侍ジャパン宮崎キャンプ2023」から侍ジャパンは野球ファンの熱狂を呼んだ。その立役者は間違いなくダルビッシュだ。メジャーリーガーながら唯一キャンプ初日からチームに合流。「自分は特別ではない」「友達感覚で」と若い投手陣と積極的にコミュニケーションを授け、技術や心の持ち方、コンディショニングなどあらゆることを惜しみなく授けた。また、サインにも積極的に応じ、その輪は広がり、すべての選手が宮崎に集まったファンたちに時間が許す限りのファンサービスをした。
チームの結束力は強まっていき、3月上旬にはダルビッシュを除くメジャーリーガーが合流。ヌートバーの合流時にはミドルネームのタツジからとった「たっちゃんTシャツ」を選手・スタッフが着用して歓迎。ヌートバーもその思いに応えるように、明るいキャラクターとほとばしる情熱でチームに大きなエネルギーを与えた。
「展開次第ではどちらに転んでもおかしくない試合ばかりでした」と栗山監督が振り返る東京ラウンドでは投打が噛み合い全勝で勝ち抜き、アメリカで行われた準決勝・決勝ではメジャーリーガーの揃うメキシコやアメリカに力負けせず真っ向勝負で頂点を掴んだ。
特にアメリカ戦の3回から7回を無失点に抑えた戸郷翔征(巨人)、髙橋宏斗(中日)、伊藤大海(日本ハム)、大勢(巨人)は皆プロ3年目以内の若い投手たち。今後の野球界や、3年後の次回大会で侍ジャパンを引っ張る存在になってもおかしくないだけの経験と自信を得たはずだ。
そして何よりもこの3月の熱狂は野球ファンのみならず、日本全体に大きな活力を与えた。球場が満席に埋まるだけでなく、テレビを通して多くの人が声援を送った。 栗山監督が「過渡期」と表現した今、WBCでの熱狂と王座奪還がもたらすものは、あまりにも大きい。
「子どもの数が少なくなっている中で、いろんなスポーツや他のエンターテインメントが頑張って、夢の幅が広がっている。その中で我々は野球のすごさや面白さなど先輩から引き継いで、次の世代に伝えて残していかなければいけない。そういう意味では勝たなければ伝わらないこともあるので良かったです」
栗山監督が優勝帰国会見で語ったこの言葉には、使命を果たした安堵と誇りに満ちていた。それはともに戦ったコーチ、選手たちも同じ思いだろう。
野球の持つ魅力やパワーを余すことなく発信したこの熱狂は、必ずや今後の野球界のさらなる発展に繋がっていくことは間違いない。
2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™
試合日程
カーネクスト 2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™ 強化試合
2023年3月6日(月) 18:00 阪神タイガース 1 - 8 日本
2023年3月7日(火) 19:00 日本 9 - 1 オリックス・バファローズ
カーネクスト 2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™ 1次ラウンド 東京プール
2023年3月9日(木) 19:00 日本 8 - 1 中国
2023年3月10日(金) 19:00 日本 13 - 4 韓国
2023年3月11日(土) 19:00 日本 10 - 2 チェコ共和国
2023年3月12日(日) 19:00 オーストラリア 1 - 7 日本
カーネクスト 2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™ 準々決勝ラウンド 東京プール
2023年3月16日(木) 19:00 日本 9 - 3 イタリア
準決勝
2023年3月21日(火) 8:00 日本 6 - 5 メキシコ
決勝
2023年3月22日(水) 8:00 日本 3 - 2 アメリカ
開催球場
台中インターコンチネンタル野球場、東京ドーム、チェイス・フィールド、ローンデポ・パーク
強化試合:京セラドーム大阪、ひなたサンマリンスタジアム宮崎、アイビースタジアム
出場チーム
プールA
チャイニーズ・タイペイ、オランダ、キューバ、イタリア、パナマ
プールB
日本、韓国、オーストラリア、中国、チェコ共和国
プールC
アメリカ、メキシコ、コロンビア、カナダ、イギリス
プールD
プエルトリコ、ベネズエラ、ドミニカ共和国、イスラエル、ニカラグア
カーネクスト侍ジャパンシリーズ2023 宮崎
試合日程
2023年2月25日(土) 13:30 侍ジャパン 8 - 4 福岡ソフトバンクホークス
2023年2月26日(日) 14:00 福岡ソフトバンクホークス 2 - 4 侍ジャパン
開催球場
ひなたサンマリンスタジアム宮崎
出場チーム
侍ジャパン、福岡ソフトバンクホークス