文=田中亮多
3月10日と11日に東京ドームで日本代表と一戦交える欧州代表。29人のメンバーのうち、最多15人を占めるオランダ勢と並ぶ柱と見込まれるのが、総勢6名を送り込むイタリア勢だ。昨季は36試合登板で防御率1.97を記録し、オリックス救援陣を支える1人となったアレッサンドロ・マエストリを筆頭に、全員にチームの中核としての貢献が期待される。
昨年はオランダに決勝で敗れV3こそ逃したものの、2010年・2012年と連覇を果たしたヨーロッパ選手権では、永遠のライバルに次ぐ10度の優勝を誇る欧州の強豪。一昨年のWBCでは、アンソニー・リッゾ(カブス)をはじめとするイタリア系アメリカ人選手の力も借りて、同国史上初の2次ラウンド進出も成し遂げた。世界野球・ソフトボール連盟(WBSC)の世界ランキングでも11位に入り、上位12チームが出場する今秋の国際大会「プレミア12」にも出場が決まっている。躍進を遂げるそんなイタリアの選手たちに、日本との試合への意気込みなどを尋ねてみた。
まず実感したのは、欧州代表の面々のこの試合に対する本気度の高さだ。開幕直前というペナントレースへのコンディション面での影響も考えられるこのシリーズ。シーズン前に仕上げてこの強化試合に臨むという点では、欧州側も同様である。しかも片道10時間以上のフライトをこなし、来日後には時差調整も必要という意味では、むしろ彼らも日本の選手以上にハードスケジュールで試合に臨む。そういう状況でありながら、イタリアの選手たちは非常に高いモチベーションを以て試合に臨むと断言している。
「これは僕にとって物凄く大きな意味がある試合だ。世界最高の選手たちと戦えるんだからね。僕らの大半は野球の他に仕事を持たないといけないから、野球を生業とする彼らと戦えるのはまたとないチャンスだと思う。今、世界の中での自分たちの立ち位置を知る意味でも意義は大きいよ」(アレッサンドロ・バリオ)
「代表に選んでもらえて本当に嬉しかった。日本のような強豪国と戦う機会を望んでいたんだ。このゲームを通じて、イタリアや欧州がコンペティティブな野球をする国・地域であることを証明したいね」(ホセ・エスカローナ)
「何年もの間日本でプレーしたいと思い続けてきたし、このオフの間もそのためにトレーニングを積んできた。早く日本に行きたい。君たちのチームと戦えるのが楽しみだよ」(ファンカルロス・インファンテ)
今回のマッチアップに対するモチベーションの高さは、「ゲームに対するリスペクトを以て、どんな試合であろうともベストを尽くす(アレッサンドロ・バリオ)」というアスリートとしての本能からくるものだけではない。WBSCは過日、欧州を代表するスポーツ放送局であるユーロスポーツ2が、全51か国の7300万世帯に向けて今回の2試合を生中継すると発表した。サッカーが圧倒的な地位を持つ彼の地において、自らのプレーを通じて野球というスポーツのプレゼンスを高めることも、彼らの重要な使命として認識されているのだ。
「ヨーロッパの人々に対して野球をアピールする絶好の機会だ。世界屈指の野球大国である日本と欧州代表として戦えるのは、その意味で本当に貴重なことだと思う」(マエストリ)
「メディアにこの試合を取り上げてもらいたいね。ヨーロッパ野球にはもっとメディア露出が必要だし、このシリーズは注目度を高める絶好機だろう」(マリオ・キアリーニ)
「サッカーしか知らない人々に新しい価値を提供できればと思うよ。『これが野球なんだ』ってね」(アレッサンドロ・バリオ)
冒頭で触れたリッゾの代表入りを見ても分かるように、イタリアは自国出身者だけでなくイタリア語で「オリウンド」と呼ばれる、イタリア国籍や市民権を取得した海外出身選手も数多く代表に擁している。今回のメンバーでも、エスカローナとインファンテの両者はベネズエラ出身だ。生まれ故郷でもなければ公用語も異なる国の代表ユニフォームを着て、国際大会でプレーする感覚は我々日本人にとっては分かりづらいが、自身がイタリア人であることには心から誇りを持っているのだと彼らは言う。
「祖父が元々イタリア出身で、それで僕もイタリア国籍を取得することができたんだ。昔マリナーズに所属していた時は、まさか自分がイタリア代表の一員になるなんて夢にも思わなかったけれど、今は本当に重要なことだと認識しているよ」(エスカローナ)
取材のまとめとして、外野手のステファノ・デシモーニの言葉を最後に引用したい。
「今回の試合は本当に楽しみにしている。2日間ともワールドシリーズ第7戦のようなテンションで戦うよ。それが僕らの文化だし、こういう機会がまたいつか訪れる保証だってないからね。確かに僕らは有名ではないかもしれないが、それでもいい野球ができるところを見せたいんだ。きっと素晴らしいシリーズになるよ」
欧州代表の選手たちの今回の目標は、東京の地に深い爪痕を残し欧州球界の底力をアピールすること。そのコミュニティを牽引し続けてきたイタリアの選手たちは、イタリア代表の愛称「アズーリ」と同じ青色の炎を、常に心の中で燃やし続けているのだ。