文・写真=元 野球日本代表 清水直行
ニュージーランド代表は大会本番を8戦全敗で終わった。実力からいえば、当然の結果でもあった。この大会のいいところは、決勝戦直後の閉会式、閉会セレモニーにすべての出場チームが出席できることだ。このため、ニュージーランド代表チームもグラウンドで日本代表 対 キューバ代表の決勝を観戦する貴重な機会を得られた。
「君たちの年代の世界最高峰のレベルがこの試合だ。しっかりみておきなさい」。こう声を掛けると子供たちは真剣なまなざしでグラウンドを見つめていた。試合は日本代表が劣勢。6回裏が終わったとき、「一緒に練習してくれた日本代表を応援しよう」と声を掛け、子供たちと日本代表のベンチ上に席を移動。そしてメガホンを借りると、地元の中学生たちによるブラスバンド演奏に合わせて精いっぱいの声援を送った。高校野球さながらの熱血応援は、彼らにとってはもちろん初体験だった。
残念ながら侍ジャパンは準優勝に終わった。表彰式が終わり、最後に日本代表にお礼のあいさつをして帰国の途につくことになった。日本代表が表彰式の後、大会全体のミーティングをしている間、ニュージーランド代表の選手たちは、閉会セレモニーを締めくくる際、打ち上げた華やかな紙吹雪がまだ残る球場内のごみ拾いをしていた。これをしたのは、ニュージーランド代表だけだった。
日本代表との別れのとき、ニュージーランドらしく、マオリ族の民族舞踊「ハカ」を披露することにした。ハカは、相手に敵意をむき出しにするときに使うこともあるが、感謝の気持ちを表すときにも用いられる。私から日本側へ事前に「今から行う彼らのハカには、一緒に練習をしてくれたことへの感謝、そして、日本代表が銀メダルを取ったことへの祝福の意味があります」と伝えた。
息の合ったハカは、さすがは本場と、私も感動するものだった。そしてハカを披露し終えた次の瞬間、子供たちは侍ジャパンの子供たちへと駆け寄り、お互いにハグを交わした。「野球は国境を越える」。よく言われることだが、この瞬間はまさに象徴的な場面だった。
後日談がある。日本の選手たち、スタッフの皆さん、そして父兄の方々が、ニュージーランドの子供たちとの交流をすごくうれしく思っていてくれているという話を、私はその後、会場にはいなかったロッテ球団の関係者から聞くことになった。「すごくいい交流だったね」。関係者はそう言ってくれた。日本とニュージーランドの子供たちの交流は、「感動秘話」として球界を駆け巡っていたのだ。
ニュージーランドへ渡ったとき、いつか野球を通じて「日本との架け橋」になりたいと胸に誓った。その足掛かりをこの大会で私自身もつかむことができた。
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著者プロフィール
- 清水直行(しみず なおゆき)
- 1975年11月24日生まれ 京都府出身。日大、東芝府中を経て、99年にドラフト2位でロッテに入団。2002年から5年連続で規定投球回、2桁勝利を継続し、エースとして活躍。05年は31年ぶりの日本一にも貢献した。04年のアテネ五輪、06年の第1回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に日本代表として出場。10年から横浜(現:横浜DeNA)。プロ12年間で通算105勝、防御率4.16。現役引退後は、ニュージーランド野球連盟ゼネラルマネジャー補佐、同国の代表統括コーチを務める。
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