文・写真=元 野球日本代表 清水直行
オーストラリアに完敗に終わったU-18ワールドカップのオセアニア予選。ラグビーでは互角以上に戦え、選手も体格的にも見劣りしないのに、野球になると差が開くのはなぜなのか。オーストラリアとの課題を探る機会にもなった。
オーストラリアには2戦して2敗。全敗で、しかも全く歯が立たなかった。1試合目はコールド負けで、2試合目も雨天コールドだった。将来有望な左腕投手もいた。18歳以下の年代なのに、すでに90マイルを計測している投手もいた。
米大リーグのスカウトがマークしており、オーストラリアで行われるウインターリーグのチームと契約しているという話も漏れ伝わってきた。そんなオーストラリアのベンチに懐かしい顔を見つけた。
日本ハムなどでクローザーとして活躍し、日本球界で通算104セーブをマークしたマイケル中村氏だった。
オーストラリアでこの年代の投手コーチを務めている彼に、オーストラリアの若い年代がどういうトレーニングをしているのかを聞いてみた。
意外だったのは、15歳くらいまでは、実力的にはニュージーランドと変わらないのではないかという答えが返ってきたことだった。では、いつから。彼が明かしてくれたのは、その後の3年間で、オーストラリアの子どもたちは「本気モード」になるということだった。
クラブチームでの練習は週2回ほどしかないのだが、選手たちは個人的にトレーナーやコーチと契約して個別の練習を積んでいるというのだ。ウエートトレーニングや打撃、投球、守備とあらゆる面でそれぞれが高い意識で個人練習をしているそうだ。実際、中村氏も居住するメルボルンで指導の仕事をしているという。
メジャーでは、春季キャンプなどでも全体練習の時間は少なく、選手たちは早朝や午後から各自で練習していると聞いたことがある。自分で課題を見つけて、それを克服するために時間を費やす。オーストラリアのスタイルは、メジャーと似ているのかもしれないと思った。
大きな差を埋めなければならないニュージーランドの子どもたちの意識で、とても残念に思うこともあった。
大会はオーストラリアがグアム、ニュージーランドに予選で全勝したため、決勝トーナメントが予定されていた4日目の日程がなくなった。しかし、グラウンドは大会側で押さえてある。
オーストラリアからうれしいお誘いがあった。「せっかくだから練習試合をしないか。もし、選手が足りないなら合同の練習形式でもいい」。
すぐにコーチに確認したところ、「子どもたちは3日間の日程を消化して疲れている。またオーストラリアと試合をしても、コテンパンにやられるだけだ。断ってもいいんじゃないか」。
子どもたちにも聞いてみた。やりたいという選手もいたが、「試合ならともかく、練習試合ならやらない」という消極的な返事も聞かれた。最終的にはグアムの選手も混ざって、練習試合は実現したのだが、誘ってくれたオーストラリアに申し訳ないような態度に、私自身は腹が立った。
コテンパンにやられるから嫌だと逃げていては、いつまで立っても勝てない。弱いなら、練習をするしかない。根性論を押しつけているのではなく、自分たちの課題を見つける機会でもあると考えたからだ。
意識の差が、力の差。厳しい現実を突きつけられた気がした。
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著者プロフィール
- 清水直行(しみず なおゆき)
- 1975年11月24日生まれ 京都府出身。日大、東芝府中を経て、99年にドラフト2位でロッテに入団。2002年から5年連続で規定投球回、2桁勝利を継続し、エースとして活躍。05年は31年ぶりの日本一にも貢献した。04年のアテネ五輪、06年の第1回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に日本代表として出場。10年から横浜(現:横浜DeNA)。プロ12年間で通算105勝、防御率4.16。現役引退後は、ニュージーランド野球連盟ゼネラルマネジャー補佐、同国の代表統括コーチを務める。
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