文・写真=野中 寿人
日本のDr.ストレッチと提携して今年度から開始したFu×Bic野球キャラバン。今年度、最後の開催としてインドネシアの首都ジャカルタにて野球キャラバンを開催しました。
今回のジャカルタ開催では通常の学校訪問での指導やグランドでの指導に加え、孤児院の子供たちへ野球を紹介指導することや、段取りをせずジャカルタの市内に繰り出して子供たちを見つけて野球を紹介してまわる、突撃キャラバンを初の試みとして行いました。
まず最初に、この項では学校訪問とグランドでの野球キャラバンの様子を紹介させて頂きます。学校訪問は2つの中学校を訪問しますが、そのうちの1校は、既に野球活動を2年前から始めているジャカルタ第19中学校です。個人的にも、昨年の秋に野球の指導を選手、コーチへ行ったことがある中学校です。そして、2校目は、イスラム色の強い、モハマディア中学校で、この学校では数年前までは、野球活動をしていましたが、現在は休止をしてしまったとのことで、学校側からの野球活動復活希望を受けて、今回、プレゼンテーションを開催致しました。
2つの中学校でのキャラバンを終えた感想としては、ジャカルタ第19中学校に関しては、昨年から野球部の人員も増加をしており、学校の野球活動とは別にジャカルタ市内のクラブチームへ多くの選手らが入会をして野球に励んでいて、良い方向へ進んでいたこと。また、モハマディア中学校の方は、野球部への入部希望者が100人弱という人数で、今後の再復活に期待するところです。
ジャカルタという地域はインドネシアの中で1番、野球が盛んに行われている地域であり、幼年期から少年期の野球に、最も力を入れています。インドネシア国内の約12,000人の野球人口の約60%以上の比率を占めている地域です。この様な要因から、比較的、他の地域よりも、野球を学校の中に取り込みやすいのですが、その取り込み方に、インパクト性を見出していません。やはり、人間教育の一環としての野球という思考がなく、単なるスポーツとしての野球での切り口でしか学校側に捉えられていない状況になります。今回は、「切り口」の転換というところで一層、学校への取り込みが急加速していく手ごたえを得ました。
また、グランドでのクラブチームへの指導でも同様に「野球をしているのだが、野球に似たことをしている」という感想を1番強く受けました。それはどういう意味かと申しますと、まず、野球の動作についていえば、打つ、投げるといった、一連の動作が、上半身主体の動きになっていることです。以前から指摘をしているインドネシア野球の最大の欠点を、見事に凝縮しています。また、ストレッチに関しても、形式だけを真似た、惰性のストレッチングしか行われておりません。従って、野球における、動作と、ストレッチという、最も重要とされる根本的な部分が備わっていないのです。
であるがゆえに、インドネシアで1番先に情報が入り、最先端な育成を行ってきているとされるジャカルタの地域内から、野球創始から現在に至るまで、国際レベルで通用する選手が誕生していないことが、動かぬ証拠として物語っているのです。
ジャカルタ州代表チーム=(イコール)=インドネシア代表チームという図式が80%以上の確率で成り立っている状況の中において、やはり、インドネシア野球の中心地であるジャカルタから、全てを矯正していかなくては、数年後のインドネシア代表チームの内容も期待は出来ません。
更に、このジャカルタに必要なのは、やはり、有能な現地人指導の育成になります。
いずれにせよ、ジャカルタの地域を統括する州の野球連盟支部が、選手育成の妨げとなる原因を認知し、改革に際して、古くからの体質がもたらす個人保守的な思考、見栄やプライドを捨てて、取り組めるかどうかが鍵となります。
野球という競技を世界全体で発展させるのは野球に携わる野球関係者の全ての方が思うこと、アジア野球途上国の現地人野球関係者とて同じです。しかしながら、多くの試行錯誤の中で、誤認識により、中途半端な成長を辿ってきたインドネシア野球。インドネシア野球をどの方向へ導くのかの決断は、我々の様な外国人ではなく、インドネシア人によるものです。
我々は、インドネシア野球の向上にとって、誤認識についての確たる証拠を提出して、助言をして行く中で、その最たる材料として、野球キャラバンでのデータを活かしてもらえれば本望です。
最後の締めとして、野球よりソフトボールが先行してきたインドネシアへ言いたいことは、野球とソフトボールは同じ様な競技と思っていると判断しますが、実は全く異なる競技だということを、しかと把握してもらいたいということです。
(続く)
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著者プロフィール
- 野中 寿人(のなか かずと)
- 1961年6月6日生。日大三高野球部在学3年の夏に西東京代表にて全国高等学校野球選手権大会に出場。
その後、日本大学体育会硬式野球部へ進学。日本大学では1年の秋から体調を壊し2年間の休部をし、現役野球人生を終える。大学卒業後は、フィリピン、サイパンなどで仕事をし2001年にインドネシアのバリ島へ移住。2004年からバリ島の子供達に野球を教え始め2005年にリトルリーグを発足。2006年にはバリ州代表監督に就任、また、クラブチームを発足。2007年にはインドネシア代表ナショナルチームの監督に就任。2007年のSEAゲームスで銅メダル、2009年のアジアカップで優勝、同年のアジア選手権大会へ出場。その後、インドネシア代表ナショナルチームの監督を辞任し、地方州底上げの為に、東ジャワ州代表監督に就任。2011年のインドネシア国体予選で準優勝、2012年のインドネシア国体前哨戦で優勝、同年のインドネシア国体決勝大会で銅メダル。そして2014年からインドネシア代表ナショナルチームの監督に復帰をし、2015年の東アジアカップで準優勝。
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