文・写真=野中寿人
第1回目のコラムでお話をさせて頂きましたが、国から資金投下のされない国際大会への参加や、有能な選手及び次期監督となる指導者の育成、さらには日本の独立リーグへのトライアウト参加など選手・指導者の送り出しといったプログラムを遂行するのには国からの資金に頼らずに、独自に資金を獲得していかなくてはなりません。
代表チームを円滑に運営させていくには、「スポンサーの獲得」「野球に資金を投下すべき為のビジネス」「そして国からの資金」といった様に、最低でも3つの資金獲得の柱を構築して行くことが必要です。
今回は、スポンサー獲得についてのお話をさせて頂ければと思います。「野球後進国」において、マイナーなスポーツと位置付けられている野球に対してのスポンサーを集うことは非常に困難です。代表チームは国の統轄する組織ですから、その国の企業からスポンサーを集うのが通常になりますが、広告宣伝の還元等(広告換算)において、ままならないのが実情です。
野球への理解がある日系企業にしても、まず「信用をどのようにして得るのか?」ということが重要になります。スポンサーの方々への報告や連絡は勿論のことですが、継続してスポンサーをして頂ける体制を築いていくことが大切で、不透明な資金の活用は絶対にしてはならないということです。要は、収支会計報告は日系法人の公認会計士による「健全」なデータを報告することが最大の信用へとつながります。
なお、現在、インドネシアで行っているスポンサーの獲得は国際大会参戦に際するための一時的なものではなく、年間の“ファンクラブ”としてスポンサーメンバーを集っています。金額も多額ではなく少額で設定し、継続して多くの企業様から支援をして頂くという方法です。そして、企業様へのアプローチは1社ごとの個別訪問にてプレゼンテーションをさせて頂き、納得をして頂いた上でスポンサーになって頂いています。
大渋滞の首都ジャカルタにおいては、1日の企業訪問は3社様が限度となり、時には、大洪水で道が通行止めでなかなか訪問先にたどり着けなかったり、大渋滞で約束の時間に間に合いそうもなく、途中で車を降りて数キロを全力疾走で走ったり、連盟の手違いによる謝罪では何度も土下座をしたりと、この様なエピソードは絶えません。
多くの訪問先企業の方や知人、友人から「何故そこまでするんですか?」と聞かれますが、インドネシアのバリ島に移住して間もない頃、インドネシア人のある方から、この様な話を受けました。
「自分の過去の汚点や過ちは、自分の代で清算しなさい。さもないと貴方の汚点や過ちは貴方の子孫が清算することになる。これは人間として絶対にしてはいけない」そして「貴方は若い頃、先輩や監督から野球を教わったはずです。その受けた恩は、何処かに、誰かに返しなさい」
この2つの言葉は自身への教訓となりました。私は大学時代に野球を断念した中途半端な野球人です。そんな中途半端な自分に再び野球へのチャンスを与えてくれ、1国の国旗を背負わせてもらったインドネシアという国に対する恩返しの気持ちがあります。更に、2009年のアジアカップでの優勝をさせてもらい、インドネシア野球史上初の優勝ということから国内では「優勝監督」と位置づけられています。これは決して私が優れているからではありません。全て選手たちによるものです。そんな彼らから資金不足で国際大会に参戦出来ない。参戦したいと嘆願を受け、また、その現実を肌で感じ、黙って見過ごすことは出来ないのです。
大学時代に野球を断念した自身の人生への後悔とその清算、そして、受けた恩を返すことが、私のインドネシアでの野球指導の根源です。ですからスポンサー獲得でも、100社でも200社でも企業を訪問します。
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著者プロフィール
- 野中 寿人(のなか かずと)
- 1961年6月6日生。日大三高野球部在学3年の夏に西東京代表にて全国高等学校野球選手権大会に出場。
その後、日本大学体育会硬式野球部へ進学。日本大学では1年の秋から体調を壊し2年間の休部をし、現役野球人生を終える。大学卒業後は、フィリピン、サイパンなどで仕事をし2001年にインドネシアのバリ島へ移住。2004年からバリ島の子供達に野球を教え始め2005年にリトルリーグを発足。2006年にはバリ州代表監督に就任、また、クラブチームを発足。2007年にはインドネシア代表ナショナルチームの監督に就任。2007年のSEAゲームスで銅メダル、2009年のアジアカップで優勝、同年のアジア選手権大会へ出場。その後、インドネシア代表ナショナルチームの監督を辞任し、地方州底上げの為に、東ジャワ州代表監督に就任。2011年のインドネシア国体予選で準優勝、2012年のインドネシア国体前哨戦で優勝、同年のインドネシア国体決勝大会で銅メダル。そして2014年からインドネシア代表ナショナルチームの監督に復帰をし、2015年の東アジアカップで準優勝。
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