文・写真=NPO法人ネパール野球ラリグラスの会(小林 洋平)
前回の記事でも触れたとおり、バクタプル・ベースボール・クラブから2名のコーチが指導者としての研修を受けるため、中国にあるMLBの訓練施設に派遣された。派遣されたのはローシャン・タパとニスカル・ケーシー。5月31日、彼らは訓練施設のある常州市に到着した。
2人が研修を受けるMLB発展センター(MLB Development Center、以下DC)は中国での野球人口増加に対応してMLBが開設した野球の訓練施設である。現在中国には、常州、無錫、南京の3カ所にDCがあり、中国各地から集められた若者が訓練を行っている。ネパール野球ラリグラスの会は数年前からMLBアジアとのつながりがあり、その縁で今回の研修が実現した。2人が研修を行った常州DCでは14歳から19歳の選手が訓練を受けている。
常州市に到着した2人は、ネパールと中国との違いに驚かされた。ネパールでは平均年収が3万円以下であるなど様々な理由から、外国へ行くのも容易ではない。そして、常州DCの施設に到着した2人は、その充実ぶりに目を見張った。彼らにとって、野球専用のグラウンドを見るのは初めてのことである。
「常州DCの環境はとても素晴らしい。整えられたグラウンドや設備は凄い。そして、ブルペンというものを初めて見た。コーチが何人もいるし、野球道具も充実している。ネパールとはあまりにも違いすぎる。」
(ローシャン・タパ談)
そして、ネパール野球に関わる人々の想いを背負って、2人は研修に入った。初日の研修は9時から始まり、午前中はフィジカルトレーニング。昼食後、午後は12時から打撃、3時から守備、そしてピッチングの指導が行われ、午後5時半に終了した。研修は毎日このような形で行われた。また、週末には訓練生による試合も行われ、2人はそれを見学しながらコーチに助言を受けていた。指導に当っているコーチの中には元メジャーリーガーもいる。研修はとてもハードなものだったが、2人にとっては何もかもが新鮮で、多くの事を学ぶことができ、2人はハードな研修をむしろ楽しんでいた。
ヘッドコーチのビル・トーマス氏は2人について、「彼らはとても一生懸命練習していた。ピッチング、フィールディング、バッティング、全ての場所で真剣に学ぼうとしていた。」と語っている。
2週間の研修期間が終わりに近づいた頃、筆者は常州DCを訪れた。
筆者が2人に研修の感想を聞いてみると「ボールの捕り方、打ち方を始め、多くの知識や技術をより深く学ぶことができた。また、試合を見ながら野手のポジショニングを学んだり、ここへ来るまで知らなかった事も多かった。」と研修での収穫が多かったことを話してくれた。
また、ネパール帰国後のことについて尋ねると「今、ネパールで子供たちがやっているプレーのやり方は正しくない。打ち方とか捕り方とかの正しいやり方を子供たちに教えたい。それと、(私たち2人は)バクタプルのグラウンドだけでしか野球をしていないが、今後は多くの学校に行ったりしてプレーヤーを集め、他の場所でも野球を教えたい。そして12月の野球大会につなげて行きたい。」と強い意欲をのぞかせていた。
常州DCは野球をする環境が整えられていて、中国各地から集まった訓練生の中にはチベットから来ている者もいた。野球の技術向上と普及には、環境の整備と指導者の育成が重要で、言葉で教えるより、実際に見せて自分で考えさせることが大切だと実感した。
ネパールに帰国した2人のネパール人指導者は、子どもたちへの野球指導に加え、野球の未開発エリアで野球教室を開催するなど、精力的にネパールの人々へ「野球」を伝えている。
NPO法人 ネパール野球ラリグラスの会からのお知らせ
「ネパール震災復興支援野球大会」開催について
今般、去る4月25日にネパールでM7.8の大規模地震が発生し、現地では死者が数千人に達するなど甚大な被害が発生しております。ネパールの野球関係者や選手の中にも親戚等が犠牲者となったり家が全半壊するなどの被害を受けた者がいたり、深刻な状況です。
当会では、去る5月8日から5月12日に渡り、小林洋平理事長と鈴木秀利事務局長がネパールに赴き、現地の状況を調査して参りました。ネパール野球の主要な活動拠点であるバクタプルは壊滅状態と聞いており、野球ができる状況にはないと想像しておりましたが、実際に家が崩壊した様子やホームレスとなった子供たちを目の当たりにし、その被害状況を実感いたしました。しかし、選手たちは地震の2日後から、野球の練習を再開しておりました。野球どころではないのは確かではありますが、その中で、今後の事に対する想いを尋ねたところ、練習してネパールに野球を広めたい、日本でプレーできるような選手になりたいとの答えが返って参りました。
当会といたしましても、ネパールの被災者を支援すべく、募金活動などの様々な活動を行っておりますが、ホームレスとなった方々などへの物質的な支援はもちろんのこと、それ以外の精神的な部分での支援、子供たちの笑顔に繋がるような支援の必要性も感じております。その観点で、当会が野球の活動を継続していくことがネパールへの支援になると考えております。
そして、その一環として、本年12月19日を目処に、バクタプルにおいて「ネパール震災復興支援野球大会」の開催する運びとなりました。尚、今回の野球大会の開催は「野球大会開催を目指したネパール震災復興支援事業」として、日本国政府が推進しているスポーツを通じた国際貢献事業であるSport for Tomorrow(注釈参照)のプログラムとしての事業認定を受けております。
ネパールの6月から9月までは雨季で、毎日雨が続きます。ホームレスとなっている者は雨ざらしの状態で、蚊の発生による伝染病の広まりの可能性もあり、被害の拡大が懸念されます。ネパールに笑顔を取り戻すため、何卒、ご支援のほど宜しくお願い申し上げます。
【問い合わせ先】
NPO法人 ネパール野球ラリグラスの会 (理事長 小林洋平)
[メール]info@nepalbaseball.net
[ホームページ] http://www.nepalbaseball.net/
[facebookページ] https://www.facebook.com/nepalbaseball1999
(注釈)「Sport for Tomorrow」について
Sport for Tomorrowは、2014年から東京オリンピック・パラリンピックを開催する2020年までの7年間で開発途上国をはじめとする100カ国以上・1000万人以上を対象に、日本国政府が推進するスポーツを通じた国際貢献事業。世界のよりよい未来を目指し、スポーツの価値を伝え、オリンピック・パラリンピック・ムーブメントをあらゆる世代の人々に広げていく取組みです。
義援金・野球道具のご支援募集について
当会ではネパール復興支援に向けて義援金ならびに野球道具のご寄付を募集しております。皆様の温かいご支援をお願い申し上げます。
【義援金の受付要項】
郵便振替にてお願いいたします。
(振込先)
口座番号 00950-8-165088
NPO法人 ネパール野球ラリグラスの会
お振込の際には、通信欄に「ネパール地震義援金」である旨をご明記ください。 お預かりした義援金はネパール野球連盟とも協議の上、被災者支援のために有効に使わせていただきたいと存じます。
【野球道具の受付について】
バットにつきましては、受付をお断りしております。バットをお送りいただいた場合は、送料受取人払いで返送させていただきますので、あらかじめご了承ください。
*野球道具のネパールへの送付は、主にネパール渡航時の手荷物で行なっております。別途、船便や航空便で送る場合には相応の運送費が掛かりますが、輸送費がなかなか捻出できないのが現状です。野球道具とともに輸送費のご支援も賜われれば、大変助かります。
- 2024年11月25日「カラダを動かす楽しさを伝えよう!」
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- 2024年4月12日「学校スポーツ連盟との協定」
- 2024年1月15日「1st National Baseball5 Championship 2024」
- 2023年11月28日「目指せ!体験から広がる笑顔の輪」
- 2023年10月2日「福島県×ネパール シャクナゲ交流」
- 2023年8月30日「ネパール最古参選手」
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- 2023年6月14日「在日ネパール人による野球体験会」
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- 2022年4月15日「主体的な活動」
- 2022年2月14日「ピンチはチャンス」
- 2021年12月22日「ネパール・ベースボール・フェスティバル」
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- 2019年11月8日「ネパールへの直行便」
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