文・写真=NPO法人ネパール野球ラリグラスの会(小林 洋平)
8月8日、17日間に渡った東京オリンピックが閉幕した。コロナ禍の中、様々な困難を抱えた大会であったが、ネパールからも競泳、柔道、射撃、陸上に5人の選手が参加した。日本選手に目を転じれば、金、銀、銅、合わせて過去最多の58個のメダルを獲得し、野球でも日本が金メダルを獲得した。東京オリンピックは日本在住のネパール人の間でも当然注目されており、同じアジアの国である日本野球の金メダル獲得に対しては、彼らも大変喜んでおり、私たちにも祝福の声が届いていた。
今回、野球が3大会ぶりに復活したが、次回2024年のパリオリンピックでは再び正式競技から外れることが決まっている。東京での野球復活は開催都市の推薦による追加競技としてのものであったが、世界では野球がまだまだ普及していないこともあり、パリではそれが叶わなかった。思い起こせば、ネパール野球の活動は1999年の活動開始当初からオリンピック出場という夢も抱いていたが、北京オリンピックを最後に野球がオリンピックから外れたことで、その夢もついえていた。しかし、東京オリンピックでの野球の復活により、予選出場が改めて一つの大きな目標となり、現地の人たちとともに活動を進めてきた経緯がある。
ところで、パリオリンピックで野球が競技から再び外れる一方で、WBSCはベースボール5の普及を進めている。ベースボール5は、野球から派生した新しい競技で、元々はキューバの街中で行われていた手打ちの野球が原点となっている。ベースボール5は、設備や道具が不足している地域でも手軽にできる競技として普及している。2026年にセネガルのダカールで開催されるユースオリンピックでは、正式競技として採用されており、今回の東京オリンピック・パラリンピックにおいても、期間中お台場に開設されている「2020 FAN PARK」ではベースボール5の体験ゾーンが設置されている。(※9月5日まで)
また、前回のコラムで述べたとおり、ネパールは7月に「キャッチボールクラシックオンライン国際交流大会プレ大会2021」に参加したが、キャッチボールクラシックも野球から派生した競技であり、ベースボール5と同様に道具や施設が不足している地域でも手軽にプレーすることができる。実際、今回の大会にネパールチームは大きなグラウンドではなく屋内のフットサル場から参加した。
世界で野球の普及が進まない理由として「ルールが難しい」、「多くの道具が必要」、「広い場所が必要」といったことがよくあげられる。ベースボール5やキャッチボールクラシックはそういった障壁を少しでも取り除き、野球普及を促す取り組みでもある。オリンピックの競技から野球が再び外れることは残念だが、東京オリンピックで野球が復活したときと同様に、今後も多くの国の人々と協力しながら様々な方法を考えて野球を盛り上げていきたい。
さて、今回の東京オリンピックでは、私たちと共に活動しているスリランカ出身の国際審判員であるスジーワ・ウィジャヤナーヤカ氏もオリンピック組織委員会で野球ソフトボール競技チームの副テクニカルオペレーションマネージャーとして大会運営に携わった。現在はベースボール5のWBSC公認インストラクターとしても活動しており、ベースボール5についても以下のように言及している。
「ベースボール5の試合は30分以内で終わるし、道具の問題も無く、ゴムボールさえあればどこでもプレーができて怪我の心配も少ないです。試合でプレーする選手は5人で、男女混合で楽しめ、家族で一緒にプレーして盛り上がることもできます。このような特徴をもつベースボール5は、世界に野球を普及させていくために最適な競技だと思います。私自身これまで多くの人に支えられ、スリランカ代表としてプレーし、国際審判員として多くの国際大会を経験させていただきました。そして、今回の東京オリンピックの運営に携わったことで、野球をより一層世界に広めたいという想いが強くなりました。」
私たちの活動においてひとつの節目であった東京オリンピックは閉幕した。しかし、世界での野球普及、ひいてはオリンピックへの再復活へ向けて、私たちはこれからも試行錯誤していく。そのためには、何事においても準備は大切であるし、ひとつのことを成し遂げるための仲間が大切である。今後もスポーツの力を信じ、世界の野球関係者とともに様々な取り組みを続けていく。
- 2024年11月25日「カラダを動かす楽しさを伝えよう!」
- 2024年9月2日「ネパール野球25周年日本ネパールスポーツ交流プログラム2024-2025」
- 2024年4月12日「学校スポーツ連盟との協定」
- 2024年1月15日「1st National Baseball5 Championship 2024」
- 2023年11月28日「目指せ!体験から広がる笑顔の輪」
- 2023年10月2日「福島県×ネパール シャクナゲ交流」
- 2023年8月30日「ネパール最古参選手」
- 2023年7月14日「ネパール野球ソフトボール協会の新体制発足」
- 2023年6月14日「在日ネパール人による野球体験会」
- 2023年3月27日「WORLD BASEBALL CLASSIC™ 2023」
- 2023年3月1日「ONE WORLD」
- 2022年12月28日「アジア野球連盟審判講習会」
- 2022年10月7日「在日ネパール人との連携」
- 2022年7月20日「第4回世界野球ソフトボール連盟総会」
- 2022年4月15日「主体的な活動」
- 2022年2月14日「ピンチはチャンス」
- 2021年12月22日「ネパール・ベースボール・フェスティバル」
- 2021年11月9日「行動」
- 2021年8月30日「世界への普及を目指して」
- 2021年7月15日「キャッチボールクラシックオンライン国際交流大会プレ大会2021」
- 2021年4月26日「原点に戻る」
- 2021年3月22日「協働」
- 2020年12月25日「迫られる変革」
- 2020年10月1日「WEB野球教室」
- 2020年7月20日「変わるもの、変わらないもの」
- 2020年5月14日「世界がひとつになって逆境を乗り越える」
- 2020年3月2日「ネパール観光年2020」
- 2019年12月25日「ワールドマスターズゲームズ2021関西」
- 2019年12月10日「第3回世界野球ソフトボール連盟総会」
- 2019年11月8日「ネパールへの直行便」
- 2019年9月19日「第14回BFA西アジア野球大会2019」
- 2019年7月2日「政府機関とのつながり」
- 2019年5月22日「第2回ネパール全国野球大会2019」
- 2019年5月4日「北海道ベースボールリーグ」
- 2019年4月15日「国際大会へ、ネパールを応援する人々」
- 2019年3月18日「侍ジャパンシリーズ2019 日本対メキシコ」
- 2019年3月1日「アジア野球連盟総会」
- 2019年2月13日「国際交流活動との出会い」
- 2019年1月9日「野球を通じた国際理解」
- 2018年11月5日「グラウンド開所式」
- 2018年10月26日「ネパールのソフトボール」
- 2018年9月5日「第28回世界少年野球大会」
- 2018年8月3日「楽天イーグルスとの対戦」
- 2018年7月31日「ネパールでのグラウンド建設」
- 2018年7月2日「東京オリンピックへの道のり」
- 2018年5月8日「PRESIDENTIAL CUP」
- 2018年4月16日「新たなネパール代表チームの選考」
- 2018年4月2日「日本の大学生との野球交流」
- 2018年2月5日「パキスタン野球連盟カワール・シャー会長を偲ぶ」
- 2017年12月27日「ネパール野球ソフトボール協会の奮闘」
- 2017年12月6日「ネパール野球ソフトボール協会の来日」
- 2017年11月29日「南アジア交流野球教室」
- 2017年10月31日「第2回世界野球ソフトボール連盟総会」
- 2017年10月10日「ネパール代表選手の日本での活動」
- 2017年9月22日「ネパール代表選手、ゼロロクブルズで学ぶ」
- 2017年8月21日「北海道での挑戦始まる」
- 2017年7月25日「スポーツ庁長官感謝状」
- 2017年6月23日「スポーツで広げる友好の輪」
- 2017年6月7日「北海道での挑戦」
- 2017年4月18日「第13回BFA西アジア野球大会2017 vol.2」
- 2017年4月4日「第13回BFA西アジア野球大会2017 vol.1」
- 2017年2月14日「世界最下位からの挑戦」
- 2017年2月9日「代表強化合宿」
- 2017年2月3日「ネパール人コーチの来日」
- 2017年1月10日「ネパール代表チーム」
- 2016年12月28日「もうひとつのWBC」
- 2016年12月16日「ネパールU15野球大会」
- 2016年11月25日「NHKの新番組『世界はTokyoをめざす』」
- 2016年10月7日「ネパール野球とオリンピック」
- 2016年10月4日「ネパールの雨季」
- 2016年8月22日「東北楽天イーグルスのネパール支援」
- 2016年6月13日「日本に住むネパール人への野球普及」
- 2016年5月19日「被災地の野球事務所に見た信念」
- 2016年5月2日「ネパール復興支援野球大会」
- 2016年4月4日「野球途上国 共通の課題」
- 2016年3月17日「ネパールから日本へ」
- 2016年3月14日「さらなる野球普及へ」
- 2016年2月10日【西アジアの野球ネパール編】〜野球普及への葛藤と模索〜
- 2016年2月9日【西アジアの野球ネパール編】〜野球を拡める課題と苦労〜
- 2016年2月2日「動き出した時間」
- 2016年1月7日「復興支援野球大会の延期」
- 2015年10月15日 「野球指導員、ネパールでの活動」
- 2015年8月21日 「ネパール野球の有望株」
- 2015年6月2日 「希望から絶望へ」
- 2015年4月20日 「ネパール野球の現状」
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