文・写真=NPO法人ネパール野球ラリグラスの会(小林 洋平)
前回の記事から約1ヶ月、日本はWBCで盛り上がっていた。WBCではイスラエルの活躍も注目を集めたが、昨年9月に行われたWBCの予選では、パキスタンもイスラエルと同じグループで本戦出場を争った。そのパキスタンで、「第13回BFA西アジア野球大会2017」(13th BFA West Asia Baseball Cup 2017)、いわゆる「もうひとつのWBC」が本家のWBCより一足早く開幕を迎えた。
大会出場に向け、ネパールは様々な準備をしてきた。しかし、大会を前にして、アジア野球連盟から残念な知らせが届いた。スシル・パリヤーとサグン・キチャジュの両選手は18歳未満なので今回の大会には出場できないというのである。急な知らせに私たちは困惑した。両選手は今後のネパール野球の中心となる選手である。選手が無理ならスタッフとして帯同させようと試み、アジア野球連盟にも了承は得たが、パキスタン政府からビザ発給の許可が下りず、それも叶わなかった。選考会で大活躍した両選手には期待していただけに、欠場は大きな戦力低下となった。
また、大会前日になって、インドの不参加が決定した。パキスタン政府からビザ発給の許可が下りなかったのである。政治的な理由とはいえ、残念な限りである。前回の記事では、グループA(ネパール、パキスタン、イラク)とグループB(スリランカ、イラン、インド)に分かれて予選リーグを戦い、各グループの上位2チームが決勝トーナメントに進出すると述べたが、インドの不参加により、グループBはスリランカとイランの1試合のみとなった。
紆余曲折はあったが、2月25日、いよいよ大会が始まった。開会式後の第1試合は、パキスタン対ネパールである。パキスタンは前回も優勝している西アジアの強国で、ネパールはこれまで2度対戦したが1点も奪えておらず、実力差は歴然としている。
今大会のネパールの目標は国際大会での初勝利ではあるが、それにとどまらず、銅メダル獲得をも目指していた。ネパールは選手層が薄いこともあり、戦略上、次のイラク戦を重視し、パキスタン戦では全選手に出場機会を与えて経験を積ませることで今後に繋げることを目標とした。そのため先発メンバーも控え選手を中心に構成した。開会式直後の試合ということもあり、全チーム注視の中、試合が始まった。
試合が始まると、ネパールは4回まで三者凡退が続いた。一方のパキスタンは1回裏に打者11人の猛攻で8点を奪った。ネパールの先発投手は、国際大会初出場の緊張感から初回は自分の投球ができなかった。ネパールでの選手選考会において彼には経験不足が目立ったが、ちょっとしたポイントを伝えて経験を積めば良い投手になると考え、代表チームに選出した。彼は私たちの期待通り、2回以降は落ち着きを取り戻し、別人のような投球でパキスタン打線を抑えた。
4回終了時点で得点は10対0。しかし、ネパールは5回表に先頭打者が左中間に二塁打を放ち出塁。その後、一死から投ゴロの間に本塁を落とし入れた。ネパールがパキスタンから初めて得点を奪った瞬間である。ネパールのベンチは歓喜に湧いた。点差はあっても最後まで諦めていない姿をみせた。試合は最終的に16対1で6回コールドとなったが、貧打と拙守で5回未満のコールドとなっていた過去の対戦から考えれば、大きな進歩である。試合前は不安も抱いていたが、レギュラー選手が中心となれば、9回まで戦えるという確信を持った。
大会2日目、ネパールはイラクとの対戦を迎えた。この試合に勝った方が決勝トーナメントへ進出すると言ってよい重要な試合である。ネパールの先発投手は、ネパール代表の主将で日本の独立リーグでもプレーしていたエースのイッソー・タパである。(現在は奈良県の社会人硬式野球クラブ「ナインフォース」に所属)イッソー・タパは貫禄の投球を見せ、イラク打線から19個の三振を奪った。
実はこの試合前の練習でイッソー・タパは肉離れを起こしていた。走ることもできず、試合に出場することさえ難しい状況であった。しかし、彼は初勝利を勝ち取るという信念で投げ抜いた。その姿を見て、私も彼のリーダーとしての強い自覚を感じた。
一方、ネパール打線も1回裏に先頭打者の内野安打を足掛かりに2点を先制し、その後も小刻みに得点を重ね、徐々にイラクを突き放していった。終わってみれば、13対3の8回コールドで、ネパールは国際大会での初勝利を飾り、ネパール野球にとって歴史的な試合となった。ネパール本国でこの知らせを受けたネパール野球ソフトボール協会の会長からも「大変嬉しいです。チームの皆さんに感謝します。世に不可能なるもの無し。これからも頑張ってください。」との言葉が寄せられた。また、ネパールの初勝利はネパール国内でも報道された。
翌日、イラクがパキスタンに負け、ネパールの決勝トーナメント進出が確定した。そしてネパールは準決勝でパキスタンと並ぶ強国であるスリランカと対戦することとなった。
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